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かなり真面目にFFをノベライズしてみる

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/10(月) 00:17:22 ID:eNU3o0JS0
このスレのコンセプト

DQはちゃんとした小説がエニックス出版から出ていますが、FFは2以外まったく刊行されていません。
文才と多少の暇のある方、どうかこのFFDQ板でFFのどの作品でもいいので、ストーリーの最初から
最後まで完全小説化してみてください。
といっても一人でこんなこと最後までやりつづける人はいないでしょう、普通。印税入るわけじゃないし。
ただの趣味だし。根気が続くはずが無い。
なので、リレー小説にするのが妥当かと。
結構おもしろい企画だと思いませんか?

ただ飽くまでも「公式の小説が出版されていない作品を情熱あるこの板の住人がノベライズする」
がコンセプトなので、FFでなくてDQでもいいです。
ただしDQ1〜7は当然対象外になるわけで、可能なのはモンスターズ等でしょう。
やはりプロの作品にはかなわないですから、DQ1〜7は書く必要がないわけです。そういうものです。

まとめ http://www31.atwiki.jp/299nobe/

過去スレとかは>>2が・・・

過去スレのURLが分からなかったので知っている方がいればお願いします。


2 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/10(月) 00:20:04 ID:eNU3o0JS0
なんか、終わった感が否めないがブックマークの整理をしてたら出てきたので立ててみた。

3 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/12(水) 03:02:05 ID:LVo2Qwa80
こんなスレッドを立ててはいけません!

4 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/14(金) 17:25:30 ID:hEkmsdGp0
なつかしい

5 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/15(土) 02:25:05 ID:uPJmHirC0
age

6 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/15(土) 02:43:07 ID:4V5Gn5uO0
言いだしっぺの1さんの作品はまだですか?

7 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/15(土) 03:17:52 ID:zhyRr0DdO
FFは話だけで見たらあんまり面白くないよな
セリフとか雰囲気はいいけどストーリーがつながらないというか

8 :こっそりと:2008/11/17(月) 06:05:20 ID:Sa6uVTIY0
変わる世界 交錯する言葉12

ゾットの塔――全身機械仕掛けのその場所が長き沈黙を
破り、随分と久しい喧噪をあげる。

内部にいるガードロボットは定例化した円滑な動きを止め急速に動きを早め、
一つの場所へと集う。
飛空挺カタパルト。長らく使われていなかった――正確にはついこの間までは
使われたこともなかったのかもしれないその場所が急速に動きを帯び始めた。
「待ちなカイン」
その慌ただしい場所の中でも一際目立つ存在。全身黒衣の様な鎧を纏う者に
対して、これまた異彩を放つと言ってもいい女性が呼び止める。
「何用だ? バルバリシア」
自分の名を呼ばれたカインは、さほど気に留めぬ様子で聞き返す。
「何所へ行くつもりだい?」
「それだけか」
バルバリシアと呼ばれた女性の問いに、振り借りもせずに答える。
「見ての通りだ。どうやら奴らが用件を満たしたらしいのでな……こちらに招待して
やらねば――」
「本当にそれでいいかい?」
「? どういう事だ?」
少し変わった問い返し、カインが振り返り聞き返す。
「だから本当にいいのかい?」
「?」
相も変わらずと言ったバルバリシアの言葉に、カインは理解しかねたのかそっと疑問符
を打ち出す。
「あいつらをおびき寄せる。クリスタルをこちらの物にして奴らを始末する。それだけだ…」
「ほう……」
ようやくと詳しく説明する気になった彼女の言葉に続けろといった合図を出す。
「でも本当にそれだけさ。奴らをおびき出す。こちらが有利なのは間違いない。私達は何にも
しなくていいんだよ。私<達>はね」
「…………」
そこまで言われてカインは黙り込んだ。
「あんた、奴らに対して――それだけでいいのか」
「…………」
「どちらにしろクリスタルはこちらの手に渡る。奴らも始末しなければならない」
「俺に、何の用だ?」
そこまで言われてようやく、カインが口を開く。
「別に何という事はないさ……どうせ結末が同じなら、過程なんて如何でもいい。そうは
思わないか…?」
「――――」

9 :こっそりと:2008/11/17(月) 06:06:06 ID:Sa6uVTIY0
変わる世界 交錯する言葉13


カタパルトから引き返す際。バルバリシアは考える――

「何故こうも気に掛ける?」
それは自問であった。
自分はルビカンテを始めとした<四天王>と呼ばれるもの、今までにも幾度もの争いや災いに加担し、
人間という存在も飽きるほど見てきていた。その記憶の中の大半の人間は脅え逃げまとい、中には命乞い
をする無力なもののイメージであった
魔物と呼ばれる中でもトップクラスの実力と知恵を兼ね備える、彼女にとって人間は特にこれといった
力を持たない無力かつ、見下すべき存在であり、無関心であるべき存在であった。
なのに何故?
「ようぉ〜バルバリシアではないかぁ〜」
疑問が声になる瞬間、通路前から聞こえてきた声がそれをかき消す。
「ル……ルゲイエ。どうしたの任務の方は?」
「あ〜それはのうーもう十分に用事を済ませたからの。後はルビカンテ様に任せておけばいいと思っての
わしは一足先に帰らせてもらったのじゃ〜」
予期せぬ来訪者はひょうひょうとした足取りで此方への距離をちじめて来る。
「そう。ならエブラーナは?」
バルバリシアは段々と近づく距離を話しながら言った。このルゲイエという老人。彼女は少しばかり苦手と
していた。否、余程の物好きでもない限り、初対面でこの者に特殊な感情を抱いても、完全に好意を抱く者
等皆無であろう。それだけは彼女が侮蔑する対象である人間としても変わりはないであろう。
「勿論〜当然バブイルの方もな。此処での研究がえらく役立ちましたわぁ〜! もうすぐあちらの方も完全に把握
できると思いますからね〜そうなればここからもお引越しでしょうか〜?」
「ふん……良かったわね。嬉しそうで」
心にもない事を言う。最もこの老人は何時もこの様にお気楽極楽といった感じなのである。要は皮肉として言ってやった
のだ。
「おうおう! なんたって思わぬ収穫がありましたからね。うん! <実験>にはうってつけそれも二つも! これは
うかれない方がおかしいって事ですよ!」
此方の皮肉を理解したのかどうかは不明だが、そのまま嬉々とした様子で去って行った。
「はあ……」
溜息をついた後、一人ごちる
「そういえば奴も元々は人間だったけ?」
確かにそうなのだ。疑問視しなければならないのはあの老人が人間ばなれしているからだ。実際、既に自分の体の一部を
機械の力で改良を加えているらしい。こうなってくると人間といっていいのが正しいのか疑問だが、少なくとも元は人間
で間違いない。自分たちの様な魔物とは訳が違う。
だが、あのような者が此処に居ることに対して、彼女は違和感を抱くことは少なくない。
今までにも自分たちのような四天王に対し、屈するような人間は多くいるのである。そのようなものの、殆どが、自分達
「四天王」対する怖れ、あるいは少数ではあるが、あの老人のように興味本位によるものである。
最も、あのルゲイエ程の狂気じみた性格の者はやはり初めてみるのであるが……だが、それでもバルバリシアにとっては
予想の範疇の理由なのである。

だが……先ほどから彼女の頭を支配するあの男は。今までバルバリシアが見たこともないような
人種であり、そして何故ここにいるのか? 彼女の考えでは全く予想がつかないのであった。

10 :こっそりと:2008/11/17(月) 06:06:58 ID:Sa6uVTIY0
変わる世界 交錯する言葉14


――あのカインという男はある一人の女性の為に此処にいる――

当然ながら、カインはゴルベーザによる術をかけられている。それが原因でゴルベーザに従っている。
これは間違いない。
だが、あの男が操られた理由。何か心の奥に付け込まれる要因があっての事であろう。
力への欲求。妬み。劣等感の排除。優越感の保持。それはどれも、誰もが誰かに対し多かれ少なかれもっており
その一部、若しくは全てが肥大化すればするほど、ゴルベーザには見透かされ、付け込まれる。
そこまで肥大化するには何か大きな理由が特定の誰か、又は自分に存在しているのであろう。
そしてカインには――カインが此処にやってきた際、一人の女性を連れたって、正確にはゴルベーザが
捕虜として一緒に連れてきた女性がいたのだ。詳しい事がバルバリシアもよく知らない。その女性は
今、塔内部でも厳重な警備網が敷かれているブロックに幽閉されており、バルバリシアと言っても
簡単に近づかせてはもらえないのだ。
何故、たった一人人間の女性如きをあそこまで丁重に扱うのだ? 当然だが理由があるのだろう。
ある時バルバリシアはカインが塔内部で与えられた部屋で何か声を上げているのを聞いた事がある。
<ッセ……ッセシルは俺の獲物だ! 誰も邪魔はさせないっ……それでローザを俺の元にぃ………>
セシル、ローザ。それが彼――カインの知っている人物であり、それが今彼が此処にいる理由――例え
誰かの手のうちで踊らされようが関係無く、己の目的を果たすために……

その言葉を聞いてからの事、彼女の思考をカインの事がよぎる事が多くなったのだ。
奴は何故そこまでして彼女に拘る? 一体三人の間に何があったのか? その理由は、それぞれの理由<わけ>
はどうなっているのか、深く考えるたびに、彼女の脳裏をカインの事が占めていくのであった。

11 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/17(月) 06:22:02 ID:Sa6uVTIY0
久し振りにみたらスレッドが復活していたので…

一応謝辞。>>1さん新スレお疲れ様です。正直もう誰もこのスレを
覚えてないと思いましたが…驚きです。
wikiこそ弄りつつも一応書いていたので、書きだめもありますし
以降も少しづつでも投下していきたいと思います。以前に比べてペース
が遅くなりそうですし、途中断念の可能性もありますが、見守ってくれ
れば幸いです。

12 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/11/17(月) 22:43:36 ID:kqmkRwD20
>1
立ってたんだ!
自分も心の片隅で気にかかっていたので、復活は嬉しい。

>8-10
乙です。
バル姐さんキター。蓮っ葉な口調に貫禄が出てますね。
衣装の描写がないのがちょっと残念。

13 :こっそりと:2008/11/22(土) 15:02:33 ID:dZy0nIHV0
変わる世界 交錯する言葉15

幾多ものハプニングに見舞われつつも、多くの助けがありつつも無事にダークエルフを退け磁力の洞窟から
セシル達は帰還した。
だが帰還の後、休む間もなく夜が明けた。そして未だ朝日も昇らぬ程の早朝、カイン達が再び飛空挺でやっ
てきたのだ。

<ローザの命はそのクリスタルと交換だ>
忘れもしない友――まだそう呼ぶ事を<彼>は許してくれるのだろうか?――否、愚問であろう。
セシルは脳裏によぎった考えを即座に否定した。その関係を取り戻す。<彼>と<彼女>と誰でもない
<自分自身>三人のだ。三人の二人でなく、三人全てのだ。二度目のバロンからの旅立ちの時に決心
した。セシルの大きな目的の内の一つ。その為に今ここにいるのだ。

(カインは俺についてこいと言った。今のあいつが何を考えているのかは分かる……分かっているつもりだ。
だから僕にはあいつがこのまま俺達に罠など用意するはずがない)
「セシル殿?」
「!」
一言言ったきり考えこむセシルにしびれを切らしたのか、ヤンが捲くし立てるように問いかける。
「ああ……とにかく今は向こうを信じなければ打つ手はない。おそらくローザは奴らの本拠地にいる……
おそらくカインも其処に連れていくのだろう」
その言葉が事実なら罠を仕掛けている可能性は充分だ。もし、そうでなくても事が穏便に済む保障は全くない上、
万一の時には危険がつきまとうであろう。
「私は……未だにあやつが……カイン殿とやらを信じる事が出来ません! あのような邪悪……危険な匂いの
する者を……」
仮にもセシルの友であったものをそのように呼ぶことに失礼を感じたのか、所々の言葉を選びつつヤンが言った。
ヤンにとってカインは戦いを共にする者の親友である以上に、祖国を壊し、幾人もの同胞を手に掛けたものなのだ。
そして、一時は自分すらも利用されたのだ、国を愛する彼にとっては侮辱に近い仕打ちであったはずだ。
さぞかし怒りや憎しみがあっても無理はない。
「すまない……ヤン」
そんな事は既にセシルにも分かっていたし、ヤンもだからと言ってセシル自体に恨み節をぶつけた事は一度もない。
……だからこその<すまない>なのだ
本来ならばカインやゴルベーザに対しすぐにでも一矢報いたくても仕方ないはずだ。だが、セシルにはローザが
いる。彼女を救わねばならない。そしてカインともこのままという事はあってはいけない。其処にはただ敵として
剣を交えるだけではいけない。
ヤンはその事を承知した上でセシルと行動している。自分の気持ちを後回しにしてまでセシルに付き合ってくれるのだ。

14 :こっそりと:2008/11/23(日) 07:51:39 ID:hr8sma7D0
変わる世界 交錯する言葉16


「ふん、どちらにしろ好都合だわい!」
ふいに二人の間に一つの声が割り込んだ。
「いずれ、ゴルベーザのやつには直接此方からしかけてやろうと思っていたところだ。手間がはぶけてよかったわ!」
「テラ……」
彼もまたヤンと同じくゴルベーザを恨む者――愛娘を最悪の形で奪われた一端を担いだ――その怒りはヤンのような国を
愛する形ではなくたった一人小さな存在のためにある。
……それゆえに根はとても深い。
「ふん、ギルバートがあのザマだからな……私があの男のぶんまでアンナの怒りをぶつけてやらねば……」
磁力の洞窟からの帰還の後、ギルバートに対しては少し心境の変化があったようだ。
以前は「ギルバート」とその名を呼ぶことすらしなかったし、彼に関係する事であるのなら、すぐさま敵意をむきだしたり
無関心を決め込むのが常であった。事実ヒソヒ草の時も、ギルバートの名が出た瞬間に興がそがれたような素振りに
変貌した程であった。
ギルバート――彼の憎しみを担う、もう一端の存在。簡単に許すという事は出来ないだろう……ヤンもシドも彼の気持ちには
多少なりとも、同意していたのだ。
だが、今は、多少なりともギルバートの事を認めたのか? 否――許すことが出来たのだろう。テラの彼に対する姿勢から、
厳しさは緩和されつつある。しかし、それはテラの今までの憎しみがっふっと立ち消えたわけではない。
「メテオ。この魔法さえあれば……」
誰に向けてでもない。一人ごちるテラには鬼気迫るものがある。それは誰にも邪魔をすることが出来ぬ意気。
そう……テラにとっては今までギルバートに向けていた悪意すらもがもう一端の矛先に向かっただけに過ぎない……だから
ギルバートの事も水に流せた。少なくともセシルにはそう感じられた。
だが異常なまでに燃え上がるその闘志は、一回りまわって、ふっと立ち消えそうな脆さも備えているような雰囲気があった。
まるで、その命を燃やすかのように……

15 :こっそりと:2008/11/23(日) 07:52:41 ID:hr8sma7D0
変わる世界 交錯する言葉17

「おうい……もうすぐじゃぞ!!」
少し間をおいて、更に割り込む声がもう一つ。
「見ろ、あれがそうらしい」
セシル、ヤン、テラ。三者共に会話を取りやめ、一斉にシドの元へ駆け寄る。
飛空挺の舵を片手に指さす先には人外めいた素材の外壁の円形物が遥か雲の上に伸びていた。
「…………」
高度数十メートル。今現在、飛空挺の飛んでいるこの場所においてさえ、最上階が見渡せないその高さは一同の言葉を失わせるには
充分すぎる程の材料であった。
「バブイルの塔……あれ以外にもこれ程の塔があったとは」
「バブイル?」
「ああ……知らないのか、エブラーナ国のど真ん中。遥か天を貫く程のドでかい塔があるんじゃ。あまりに異型めいたそれは長らく謎の
存在として、時に畏怖の対象、時に新興の対象にされたりしとる。、あれにそっくりだ……わしもあのあたりを一度飛空挺で航空した際
にしかみとらんがな……」
冷静になって考えてみれば、<塔>という形容が一番納得する表現かもしれない。だが、常識めいて雲を突き抜くその存在は塔という
には常識外の高さだ、まるでこの星と何かを繋ぐ程の何か――
「何故今までこんな場所が見つからずにいたのです?」
「そうじゃ…今いるこの場所――」
そう言って、傍らから地図を取り出す。
「今までにも何度か飛空挺が通った事がある場所なんだが……どうもこの一体には霧というのだろうか、何か特別な邪魔があって詳しく
探索されていなかったんじゃ。何度か詳しく調べようとしたものもいたが幾度も失敗しておる……まさかこんなものが隠されていたとはな」
話す矢先、外壁の一部分が光を示す。
「どうやら着艦許可みたいじゃな……あそこにカタパルトでもあるのだろう」
「いくぞ!」
テラが言った。
「何もなければいいのですが」
…………
ヤンがどのようなつもりでその言葉を発したのかはわからない。だが、この状況。何もおこらぬわけはないだろう。
テラ、ヤン、シド――ローザ、カイン、ゴルベーザ――そしてセシル。幾多もの意志の交錯するこの場所に於いて、世界すらも
その様相を変えてしまう程ではないのか。

16 :こっそりと:2008/11/26(水) 00:52:26 ID:QxUrBH4u0
変わる世界 交錯する言葉18

「約束通り来てくれたか……嬉しいかぎりだ……」
正直驚いた。それが率直な感想であろうか。
罠が仕掛けてある事はほぼ間違いないと思っていたし、そうでなければ相手も総戦力を用いて
こちらに襲い掛かってくるものであるだろう。そう、セシル達四人の誰もが思っていた。
なので、飛空挺をゾットのカタパルトに着艦する事にさえも十分すぎる警戒を払っていたし、
実際に着艦した後も、待ち伏せの危険もあると思い、常に周囲の警戒をおこたわることなく進むこと
にしていた。
「おかしい……」
誰かが最初に疑問を発した。ヤンであっただろうか。
「うむ確かに」
「何を考えておる」
しだいに、あがる同調の声。
(てっきり僕らを待ち伏せしているものとばかり……)
セシルも心で呟く。自分達はローザを人質にとられている為、向こうの案内で態々敵の本拠地とも
呼べる場所にやってきた。
向こう側の目的は此方の持っているクリスタル。それを渡したら素直にローザを返してもらえる――
そんな事はセシルは一から信じてはいない。そもそも端からローザを返すつもりはないのではないか。
最も、今の自分にとってはローザだけを返してもらうだけでは用事を満たす事にはならない。
もう一人、取り返してもらわなければならない人物がいる、そして「彼」を助けぬ限りは本当の意味で
ローザすらも助けた意味にはならない――

17 :こっそりと:2008/12/06(土) 21:53:03 ID:YxTDiQr00
疑問が確信に変わったのは、カタパルトフロアを抜け、何部通路までたどり着いた時であった。
未知ともいえる機械類で構成された壁が幾重にも連なり、迷路のような構造をなしている塔内部。
これなら待ち伏せされてようが、大多数を相手にしなくて良いか? だが……通路の構造次第では
挟みうちの危険が――等とこれから始まるであろう戦いの状況判断を頭に張り巡らせていた。
だが――そこにやってきたガードロボットは僅か一機だけであった、それも見るところ迎撃用の装備等
は到底持っていそうにない――そのガードロボットから発せられたが…

「なんのつもりだ?」
ガードロボットに、正確にはそこから発せられたカインの声に、真っ先にテラが言う。
「私達を罠にでもはめるつもりだと思っていたのだが……」
思った以上に穏便な向こうの歓迎に、此方の推論を打ち明け尋ねる。
「ふ……今はまだその時でない」
「どういう意味だ?」
「言葉の通りだ。まずは最上階までこい。其処にゴルベーザ様はおられる。勿論ローザも一緒だ
早くしなければローザの命は保障できんそうだぞ」
「カイン!」
ゴルベーザを敬い、ローザの身の重大さをさもあっさりと述べる友……セシルは思わず彼の名を叫んだ。
「慌てるな、セシル。クリスタルさえ渡せば、ゴルベーザ様も悪くは扱わんだろう」
「…………」
「ガードロボットの連中達も出来る限り迎撃させないようにしておいた、さほど苦労せずに上までこれる
だろう……まあ、あくまで<できる限り>の事なので不手際があるかもしれんがな。それではな……」
そこまで言ってガードロボットの声は途切れた。ガードロボットはそのまま来た道をゆっくりと引き返して行った。
「…………」
「どうしますか?」
沈黙するセシルにヤンが尋ねる。
「行くしかなかろう……」
テラが静かに答える。突入前の戦意や意気は若干鳴りをひそめてしまったようだ。
「ああ……うん。行こうか……」
セシルもそれに応え、先に歩きだす。
(カイン……)
――歩み始める聖騎士の脳裏にはいつの間にもその名が離れずにいた。
彼にとってはローザは掛け替えのないものではなかったのか? セシルの存在すら差し置いてでも?
ならば何故「彼」は「彼女」の命をも天秤にかける行いに加担しているのだ? 己の心を支配されているからか?
そこまで「彼」の心は堕ちてしまったのか? 違うだろう。「彼」は見境なく誰かの手足になるわけはない。
考えるだけ野暮といったところか、それは「彼」に聞けばいいのだ。そして、それがセシルの目的――
そう遠くない未来に見える一筋の道――そっれがあるからセシルは迷うことも挫ける事も無く先を進めるのだ。

18 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/06(土) 21:54:00 ID:YxTDiQr00
タイトル忘れ。

変わる世界 交錯する言葉19

です。

19 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/06(土) 23:55:26 ID:5oV0DYmO0
>18
乙。
セシルたち、意外とすんなりロボットの存在を受け入れてるなw
ところでちょっと聞きたいんだけど、書き溜め分って大体どのあたりまで進んでるの?

20 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/17(水) 19:45:48 ID:1otRkc9g0
保守

21 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/26(金) 02:55:38 ID:cVSJfQ7A0
自分で立てて忘れてたw
お疲れ様です>書き手さん。wikiの管理人さん
明日読みます!

22 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2008/12/31(水) 00:36:26 ID:6hSXgDyqO
保守

23 :久しぶりに:2009/01/04(日) 16:38:48 ID:3/OtnhQR0
変わる世界 交錯する言葉20

ゾットはその機械的な外観と同じく、内部の様相や、構造も機械的であった。
幾多もの階層を登ろうが、同じような通路で構成され、景色は無機質な外壁から
代わり映えすることはなかった。
延々と自分が同じ場所を繰り返して歩いているのではないか? そんな疑問すらも
覚えてしまう程である。
そんな迷宮のような場所を進む中でもセシルの心は整然としていた。
――全てを信じたといえば嘘になる。
疑問があったかと聞かれるとうなずくしかないと思う。
だが、己の中になる確信はそれらを雑念として処理してしまう程の確固たる強さであった。
仲間たちもセシルの覚悟を大なり小なりに感じ取ってくれたのだろうか……このまま先へ
進むことに対しても特に異を唱えはしなかった――勿論、周囲の警戒を怠ることはしなかったが。
ただ。テラに関しては、一刻も早くにゴルベーザと相まみえたいのだろうか、その歩幅はセシル達
よりも速く、既に五歩程先を歩いていた。
「テラ殿……少しは我々と歩調を合せてくだされ」
ヤンが言った。唯のお節介ではない、敵襲を予期してのことだ。敵襲がくれば真っ先に襲われるのは
先頭にたつものであり、賢者と呼ばれるものは一般的には立つべき場所ではない。
「ふん……このままでいい」
「ですが……」
「誰がこようと、私の前に来れば全て吹き飛ばしてやるわ!」
ぶっきらぼう且つ、乱暴な返答のテラに、ヤンの穏やかな抑制は消えてしまった。
「…………」
「―――」
「それならば……私も前に立ちましょう。それでよろしいか」
少しの沈黙の後。
「好きにしろ」
静かに言った。
瞬間、歩く一向に何かが飛来した……
「シド!」
今まで黙っていたセシルは急に大きな声を出し、自分の少し後ろを歩くシドをテラ達のいる方向へと
押し出しした、それから瞬刻もしない内に、やってくる飛来物をかわすべく身を翻した。
「やはり罠でありましたか」
見ると、ヤンが言葉を発する前に、その飛来物の原因たる者に飛びかかり破壊していた。
そこには侵入者を迎撃するべく配置されたガードロボット――
「すまぬなセシル」
助けられえたと判断したシドが礼を言う。
「ふん……ゴルベーザの事だ。驚きはせぬ……」
「違う……」
別方向からでたテラの声を、セシルが静かに否定した。
「何?」
「狙いは僕……そう僕だけだ……」
そう言った後、セシルは今まで全速力で今まで辿ってきた道へと引き返し始めた。
「おいっ! セシル何所に行く?」
「ごめん、テラ達だけで先へ向かってくれ――」
僕は――
そこから先は言葉にせずに、自分の中で言い聞かせるだけにとどめた。
どうやら「彼」も自分との応対を望んでいるのだろう。
理由は分からない。だが、問う必要もないだろう。すぐにでも明らかになることだ。
見ると、どうやらセシルの目論見通りだったらしい。ガードロボットはテラ達を無視して此方へと向かいつつある。
やはりだ……セシルは自分の考えが確信に近付きつつあるのを噛み締めつつ足を速めた。

24 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/07(水) 20:06:15 ID:S0XhY+QZ0
乙!

25 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/07(水) 22:29:31 ID:VeYrdL9VO







イェーイ!!

26 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/08(木) 00:42:00 ID:5gUpAKvF0
>>23
乙であります!

27 :またこっそりと:2009/01/08(木) 18:52:12 ID:eD1k2yqF0
変わる世界 交錯する言葉21

駆ける足音と共にセシルの脳裏を巡るものはただ一つしかない。
過去、現在、そして未来――それもそう遠くないもの。
その内容には思い出したくもない程の苦しい時もあったし、いつまでも心の内に留めて
おきたい位の至福の瞬間もあった。
どれもが大切な時間。どれもが消せない時間……どれもが戻せない時間。
そして…反芻される全ての思い出は振り返っても振り返っても、何処にでも彼はいた。

そう――「彼女」も――

いつ間にか追尾しているはずのガードロボットの猛攻は止んでいた。
どうやら「彼」の目的からしても此処でセシルを始末する事は「予定」にはないのだろう。
見れば、随分と遠くまで来たらしい。
迷路のような通路を見渡せども、テラ達の姿は何所にもない。
「無事であればいいが……」
思わず一人ごちた。セシルにとってテラ達は大切な仲間であり、常に頼りにしてきた存在だ。
なので、セシル一人が抜けた所で、たとえ別の追手がやってきたとしても大丈夫であろう。
前衛要因を取って見てもシドとヤンがいる。みすみすやられてしまう訳がないだろう。
シドの強面ながら陽気な笑顔が思い出され、思わず微笑が零れおちる。
「だけど……」
ヤンやシドについては安心はしているし、信頼もしている。
だがテラの事だけは気がかりだった。
別にテラだけを信頼していないとかそういう事ではない。ただ、テラが戦いに身を投じる理由――言うなれば復讐だ。
その為になら今のテラは何でもするであろう。たとえ自分の身を案じない捨て身の行動であろうと……
目的や自分の確立の為には手段を問わない。それはまるで――昔<暗黒騎士>の自分でもあり、ゴルベーザに操られた
ベイガンでもあり、今の「彼」もそうなのだろうか?
ミシディアの長老も今のテラを危惧していた。ミシディアを発つ際にも、旧友としての心配と共に念を押されていた。
誰にだって黒き感情はあるだろう。時にはそれが増幅し、止められなくなる時もあるだろう。
だけど……それを抑える事が出来なくなった時、人は自らの意識すらも分らなくなり、あらぬ方向へと闇を走らせるのかも
しれない。渦巻く悪意はやがて、周囲の似た意識と同調し次々に勢力を増していく……
壮言大語すぎるかもしれない……曲がりなりにも試練に打ち勝ち、パラディンとしての道を開いた自分にならばねじ曲がる
感情を正す事が出来るのか? それがパラディンになりしものの使命なのかもしれない。
「今はあの二人にまかせるしかない……」
頼んだぞ……
セシルは年配の仲間二人に心で懇願すると前を向いた。
「今はこの迷宮を抜け出すしかない」
ゾットの複雑怪奇な道筋の中でも、セシルの心は迷う事はなかった。
ゴールはもう近い。いつから始まったのかわからない迷宮はもう終わる。
だけどここは旅の終わりでない――始まりなのだ。

セシルの足は迷路の様な道筋を辿った先、一つの小部屋へと続く機械扉の前で止まった。
扉の前に立つと、程無くして機械的な音をたてつつ扉が開いた。
セシルは躊躇せずに足を踏みいれた後、すぐに口を開いた。
「カイン」
そして……「彼」――友の名を呼んだ。
「久し振りだな……」
「彼」――カインの返事は返ってくるのには、それから一寸の暇も無かった。

28 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/09(金) 17:47:15 ID:iiYrADnk0
FF4小説出た件

29 :こっそりと:2009/01/12(月) 20:18:19 ID:PAAFizzT0
<久し振りだな――>

ファブールの邂逅以降、敵味方としてそれぞれ向き合う機会は何度もあった。
しかし、その時にはカインはそっけなく上からの通達を述べると颯爽と引き返して
いくだけであっただろう。
<話すことはそれだけだ――>
バロンの上空では一言だけであっただろう。
だが今、この瞬間カインはセシルに対し、久し振りと言ったのだ。
「ああ……そうだね…カイン」
実際にセシル本人も、<今>のカインには充分に接しているとは思っていなかった。
これが、事実上、カインとはファブール以降との再会になる――

カインは何を考えているのか? 何故そんな事をする? 戸惑いは尽きない時もあった。
考える時間も何度もあっただろう……
そもそも他人は他人。いくら血肉を分け合った程の兄弟や、揺り籠から墓場まで苦楽を
共にする程の親愛なる友、人生に多大な影響を与えるほどの恩師――いかに素晴らしく
形容しようが、自分以外の誰かなのである。
時々、すれ違いがあったとしてもおかしくはない。否……むしろ当然なのである。
<時々―あいつの事がわからなくなります……>
小さい体を呈して、セシル達を救った双子の魔道師――その姉がふいにこんな事を口走った時があった。
阿吽の呼吸で魔法を唱える姉弟でさえ、完全なる理解の上で成り立っている訳ではない。
ならばセシル――カイン――それにローザ。無邪気な子供でない三人であれば、なおのこと完璧な要素で
構成するの到底無理であろう。
「また会えて嬉しいよ――」
相互理解。嘘の無い関係。人間が今のままである限りそんな世界は一生やってこない。
人は常に罪という十字架を背負って生きていく。それは増えることはあっても減っていくことはありえないだろう。
だからこそ――人は十字架を背負う咎人であるからこそ、これ以上の道を踏み外さないようにする。
光<パラディン>という名もその為に授かったようなものだ。長き戒道を行く先の光――行く先は闇でも光があれば先は明るい……
「ふん……俺もだぞセシル」
ふと零れたセシルの言葉にカインも返答する。
「こうやってまた相まみえる事が出来るのだからな……」
「やはり……戦うのか」
「当然だ!」
静かな問いを荒らぶる咆哮が打ち消す。
「その為に用意したのだよこのゾットという舞台を! ゴルベーザの事だ……クリスタルは貰えど、ローザを
返すつもりなど毛頭にないのだろうな! それならば、俺も……好きにやらせてもらう事にした!」
そこまで分かっていながらもカインは相まみえようとしているのだ。
「分かった」
静かながら、力強くセシルも答えた。
以前の暗黒騎士のセシルには迷いがあった。親友と剣をまみえる事など到底できない。表面では戦うつもりであっても
何所かで拒否して、本気になっていなかった。
だけど今は違う……どんな事にも――愛する者や信じていた仲間達のどんな側面であろうが、目を背ける事なく受け止める。
今なら躊躇いなく剣を取ることが出来る。それは決して友との完全なる拒絶や否定ではないからだ。
傷つける事を怖れつつも、本当に恐れていたのは自分が傷つく事……
ファブールからの光の道筋は今終わりを迎えようとしている――だからセシルの心は迷いなく剣閃を走らせることが出来るのだ。

30 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/15(木) 01:00:03 ID:OE6o5iiV0
>29
乙。
カインの口調になんか違和感。「〜のだよ」とか言う奴ではなかったような。
あと……や──がちょっと多すぎる。
ついでに剣を「まみえる」でなく「交える」じゃないか?

>28
今上巻読んでる。最後まで読まないことにはなんともいえないが
>やはりプロの作品にはかなわないですから、DQ1〜7は書く必要がないわけです。そういうものです
このコンセプトは次スレから外したほうがいいんじゃないかって気がしてる……

31 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/19(月) 03:20:54 ID:C0twPWCSO
>>30
それじゃスレタイにDQを追加した方がいいのかな
別にこのままでもいいかな…


ところでFF2ってどこまでいったんだろうか
フリオニールで探してみたら序章だけ…
書き手いないなら書いてみていい?もちろん引き継ぎで

32 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/19(月) 19:38:32 ID:+R9zjc0N0
FF4公式ノベライズ読み終わった。
……あのネタが被るとはなー。
しかし、なんといっても短すぎる。
>31
訂正、いらないのは↓だけでw
>やはりプロの作品にはかなわないですから

>書き手いないなら書いてみていい?もちろん引き継ぎで
待ってるぞーノシ

33 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/22(木) 16:00:37 ID:OQzdqsoNO
保守

34 : ◆iGPNkGtkB2 :2009/01/25(日) 01:35:23 ID:9y2OgYR20
決意1


部屋の中心にある光の魔方陣。その上には深手を負った若者が三人。
白装束をまとった青年がその方向へ手をかざし、目を固く閉じて意識を集中させる。
たちまち掌に暖かい光が灯り、美しい軌跡を描いて彼らに注ぎ込まれた。
「……ミンウ、助かりますか?」
高貴な顔立ちに不安そうな表情を浮かべ、傍らの女性は白魔導士に尋ねた。
「はい、王女。時期に意識を取り戻します。強い生命力を感じます」
ミンウのその言葉を聞き、ヒルダ王女は安堵した。
フィンからの避難の際、彼らは血の海に倒れていたところを発見された。
三人ともひどい出血で、今にも死にそうだったところを慌てて担ぎこまれたのである。
「優秀な白魔導士であるあなたなら、この子たちを助けられると思ったので……」
「もう大丈夫、この魔方陣が生命力を増幅させます……そっとしておきましょう」
「安心しました。それでは会議に行きましょう。皆、会議に集まっている頃です」
外套をバサリと翻し、若者たちに背を向ける。その表情は、まるで苦虫を噛み潰したかのごとく険しい。
理由はこのアルテアより遥か北の地、バフスクにある。そこで帝国は、現地の人々に大戦艦の製造を強要していた。
大戦艦が完成したら帝国は殺戮のかぎりを尽くし、まもなく世界を支配するだろう。
それまでに策を練り、何としてでも止めなければならない。
早足で議場に向かう王女。ミンウは一瞬振り返った後、その背中に続いた。


「う……」
かすかな身じろぎのあと、フリオニールは目を覚ました。
目に映ったのは灰色の雲で覆われた気持ちの悪い空ではなく、湿っぽく、少しくすんだ茶色の天井。
おぞましい黒騎士は、血で赤く光る槍はどこへ行った。
(俺たちは、生き残ったのか?)
試しに、ゆっくりと貫かれたあたりに手を伸ばす。血の感触も、激しい痛みもなかった。
うまく考えることができなかった。色々なことがいっぺんに起こったから、無理もないかもしれない。
「ここは……」
やけに重い体を起こし、緩慢な動きであたりを見回す。レンガ造りの部屋で、自分の下にある魔方陣以外何もなかった。
そう、何も。
「……! 皆は!?」
目を見開き、よろよろと立ちあがると、フリオニールは扉に向かって走った。
自分だけが生き残ったのか。皆はちゃんといるのか。
足が思ったように動かなかったが、そんな些細なことなど気にしてはいられない。
フリオニールの発した仲間の名が部屋中をこだまし、扉が勢い良く開かれた。


35 : ◆iGPNkGtkB2 :2009/01/25(日) 01:38:30 ID:9y2OgYR20
決意2


マリアは抱えた膝に額を押しつけながら、扉が開くのをただじっと待っていた。
ガイもまた座ったきり、一言もしゃべらずその状態を維持している。
先に目覚めた二人だが、一番重症だった彼はまだ目覚めていない。
(もしこのまま目覚めなかったら……)
さっきから浮かんでくる考えを、そんなことはないと懸命に振り払う。ガイもこんな気持ちなのだろうか。
「ねえ、ガイ。フリオニール遅いね」
「……フリオニール、ねぼすけ」
ぽつりと出た彼なりの冗談に、マリアはくすりと笑う。
「ほんとにね。早く起きてくればいいのに……」
その時、突然大きな音をたてて扉が開き、二人はびくっ、と肩を震わせる。
扉から見慣れた、だが一番会いたかった青年がつんのめりながら出てきたのを目にすると、彼女らは眼を輝かせながら駆け寄った。
「フリオニール! よかった……私……」
わずかに涙を浮かべて安堵するマリアにフリオニールは笑いかけた。ガイも嬉しそうにほほ笑む。だがどちらも形だけの、すぐに壊れてしまいそうな笑みだった。
「……レオンハルトは?」
もしかしたら、自分たちのように助けられているかもしれない、という僅かな希望を問いかける。
しかし、ガイは表情を心底悲しそうなものに変えると、首を横に振った。
「フィンの王女、助けた、俺達……レオンハルト、いなかった」
「そうか……」
単身であの黒騎士たちに挑んだのだ。可能性は絶望的である。
マリアは下を向いて顔を上げない。肉親をこの一日で一気に亡くしたのだ、きっと泣いているのだろう。
フリオニールもガイも、共に泣きたかった。だがそれを、自分たちをかばってくれたレオンハルトは望んでいるのだろうか。
彼は確かに生き延びろと言った。そして、妹を頼むとも。青年は込み上げてきたものを、無理矢理心の奥に仕舞い込んだ。
「そういえば……ここはどこなんだろう」
気分を変えるため、というわけでもないが、目覚めたばかりのフリオニールはここがどこか、全く見当つかなかった。
泣くのをやめ、マリアは掠れた声でゆっくりと伝える。
「アルテアの反乱軍のアジトなんだって……フィンの人たちはここに避難しているみたい」
「……ふむ」
フリオニールは曖昧にうなずくと、腕を組んで考え込む。しばらく黙った後、まっすぐに二人を見て告げた。
「俺、反乱軍に入ろうと思う。王女には恩があるし、何よりこのまま何もしないのは嫌なんだ」
レオンハルトと別れた時の自分の無力さ。そんなものは、もう二度と味わいたくなかった。
そんな彼に、マリアは表情を少し強張らせて問いかける。
「黒騎士を見たでしょう? 私たちの相手は、人ではないのもいる……それでも?」
「ああ」
変わらないまなざしで短く即答するフリオニール。こうなれば止めることは容易ではない。
二人は黙っていたが、顔を見合わせると、穏やかな声で青年に誓う。
「俺も入る。手伝いたい」
「私もよ。ただ待っているだけなんて、そんなの嫌」
「二人とも……。わかったよ」
それぞれの顔を見て、頷き合う。
不安は少なくなかったが、何かあっても切り抜けてみせるという意志が、三人の中に生まれた。


36 : ◆iGPNkGtkB2 :2009/01/25(日) 01:41:39 ID:9y2OgYR20
31です。
今回はここまで。亀ですがよろしくお願いします。

37 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/01/30(金) 01:30:29 ID:MuKtLhnKO
保守

38 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/05(木) 11:52:17 ID:O4hWVE2eO
保守

39 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/07(土) 15:51:18 ID:WTGej5ue0
まとめサイト見た。DQ8おもろかった。

40 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/11(水) 19:53:53 ID:wb79vCq3O
保守

41 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/18(水) 23:00:28 ID:EKl7rMMVO
保守

42 :超おひさ:2009/02/21(土) 22:26:06 ID:QE/v147a0
変わる世界 交錯する言葉23

聖域――それは彼女にとって唯一無地の存在であった。

それは誰にも汚させてはならない。親しい仲間であってもだ。
その時がくれば、彼女の相手を見る目は「好意」から「憎しみ」に変わるであろう。
事実、彼女はその聖域を崩さぬように常に気を払っていた。親や仲間達との付き合いも
それだけにしても、ひょっとすると上辺を繕っていたのかもしれない―おそらくそうであろう。
あらゆるものを犠牲にして、あらゆるものを捨てて彼女は聖域を死守してきた……つもりだった。

崩壊は意外なところからやってきた。

セシル――カイン
彼女の聖域を構成するのに於いて欠かす事の出来ない二者――それは友人の域を超えた親友であり
誰を差し置いてでも優先するべき二人。勿論自分を差し置いてでもだ。
今まで彼女は自分の気持ちすらひた隠しにしてきたように振舞っていた。今思えば、嘘を吐くのが
下手だと呆れざるを自嘲したい気持ちであるが、少なくとも過去の自分はそうしてきたつもりだ。
とにかく彼女の聖域と呼べる理想郷の中にはセシルとカインが重要なファクターとなっている。
決して自分の気持ちだけでは維持する事のできない空間であったのだ。其処に介在する他者二人。
他の皆は拒絶して追い払っていても、<彼ら>だけの存在はどうしてもあってはならないのだ。
自分は薄々感づいていたのだ。一人では成り立たない場所を一人で維持しようとした矛盾に。
誰でもない自分を変わらせない事は出来ても、他人の変化を止める事などできるはずがない。
彼女の矛盾だらけの理想郷は誰からも介入されることなく、自ら崩壊していったのだ。
自壊する聖域を止めることは既に彼女には到底不可能であった。
聖域が崩れる際、彼女は喚くことしか出来なかった……その瞬間、彼女にとって世界の全てがどうでも
よくなった。そう自分の身がどうなろうと構うことはなかった。

43 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/21(土) 22:44:15 ID:QE/v147a0
あげちゃいましたか…すいません。

44 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/21(土) 23:20:58 ID:Nh6K5nv80
乙!これからも期待してますよ!

45 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/21(土) 23:34:32 ID:RuAdL0AUO
期待してますって・・・(笑)

46 :おひさし:2009/02/24(火) 23:25:28 ID:r3LGuvY50
変わる世界 交錯する言葉24

あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。まだ自分は生きていた。
誰にも侵されない、自壊することなど有り得ない、そう信じていたものが打ち砕かれてから…
もしかすると、あの時ゴルベーザの一撃をくらいこうやって拘束されることすらも、自分から望んだ
のかもしれない。
それぐらい、聖域が壊れた瞬間の自分は取り乱していたのだろう。
捕らわれた後、彼女はすぐさま、今自分がいる所まで連れてこられた。
最低限の明かりだけの、闇に包まれたかのような無機質な部屋。ここに彼女はずっと閉じ込められている。
自分を此処まで連れてきた張本人――ゴルベーザ達が自分を何に使おうとしているのかは最初分らなかった。
ましてや、自分の信ずる聖域側の人物…であったカインの真意など知りようがなかったのだ…そう最初のうちは…

始めはあまりの衝撃の為、自棄になっており茫然と時間が過ぎていくのを待つのみであった。
助けを求めるような気持ちは微塵も無かった。セシルの事すらも頭に入っていなかったのかもしれない。
普通の人間なら、日に日に衰弱していくであろう。だが、彼女にとっては幸か不幸なのか、このような環境に
身を置かれるのは初めての事ではなかった。
そう……セシルとカインがバロンを発った数日後の事――ミスト壊滅の報、二人の失踪の報、そしてセシルの
謀反の報――様々な事態が同時に彼女に訪れた。それに伴い残された彼女にも沢山の疑いや詮索が向けれた。
結果、自棄を起こして暴論を述べた彼女は、王――今思えば偽物であったのだろう――の逆鱗に触れることになり、
今と同じような監禁状態を迎える事となったのだ。もしシドの助けがなければどうなっていたであろうか。
自棄っぱちのままであっただろう。
そんな経験を思い出し、幸薄い自分の運命を苦笑しつつも、あまり嬉しくない過去の経験を噛みしめながら、
彼女は段々と冷静さを取り戻していったのだ。
……あの時に比べれば、状況は幾分かましだ。
自分は強い女だ。いくら奈落の底に突き落とされようがただでは落ちない。それどころかいつか何度でも、どれだけ
時間をかけようが再び、崖から登りあがる。
自分は強い女だ……彼女にはそういった自身があった。

47 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/26(木) 12:38:36 ID:vnFNwnvw0
誤字脱字多すぎ
ちゃんと推敲しろ

48 :age:2009/02/26(木) 15:57:37 ID:FGbWWOZ30
age

49 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/02/27(金) 22:58:36 ID:s20jxfLe0
>46
乙。
ローザの心境を丁寧に書き込んであるけど、その分テンポが犠牲になっちゃってるね。
セシルたちの方がどうなってるのか気になるぞ、と。


50 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/03/08(日) 01:09:04 ID:7JqjpM430
ほす

51 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/03/16(月) 22:32:30 ID:3tmDdWlOO
保守

52 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/03/23(月) 10:21:51 ID:vsurHxZ6O


53 :途切れ途切れですまぬ:2009/03/26(木) 00:23:17 ID:PNBU7+kP0
日々、監禁生活が長くなる内に彼女も色々考えた。
残されたのは三組の二人。自分とセシル。自分とカイン。そしてセシルとカイン。
TWO OF US――残酷な時間により崩れ去ってしまった過去――結末なんて全て知っていたのかもしれない自分のアイデンティティー。
しかし決して消えはしない。
過去という事実は否定は出来ても、完全に消滅させる事はできない。そして誰もが持つその過去の「事実」は
「経験」として個人に刻まれる。
その道筋を常に振り返り、自分の軌道を常に忘れなければ、人は完全に変わってしまうことなどない。
いつかきっと、何度でも、どんな絶望が訪れても、立ち直れる。
本当の「強さ」とは、ただ今すぐにでも自分の力を誇示する事ではない。
己の実力をいかに客観視できるか、そして、常に今の場所を向上できるか、また、その力や才能を維持する事が出来るかだ。

今の自分は自由だ。無論、現実的には拘束されてはいるのだが、聖域<しがらみ>を抜け出した彼女は間違いなく
今までの柵から解放された。
何も背負うことなく、無関心に荒野を彷徨う旅人。だけどそれは決して不幸でも、苦しいことでもない。
既存の固定観念を捨て、仮面を被った偽物を卒業し、隠してきた自分をありのままに表現する本来の自分へ帰すのだろう。
いつも慌てて仕舞い込んだ本音も今なら言えるだろう。
今まで維持してきた<二人>にもそれは例外なく当てはまるだろう。
この時こそ彼女――ローザ・ファレルは新たな所業を行わねばならない。
誰の目も、自制心すらも振り切り、隠してきた自分(さぞかし臆病でずるく、小心であっただろう)の抱える想いを
<彼>へと解き放たなければならない。
その為には何としてでも此処から生きて抜け出し、<彼>と<彼>二人の元へと辿りつかなければならない。
どうすればいいのか? 今度は精神的な問題から現実的な問題解決へとローザの思考は移っていった……

しばらく考えを張り巡らせていると、鳥籠の如き、この狭き檻に急に明かりが差し込んだ――

「と……あんがローザかい?」
其処に立っていたのは見知らぬ女性。否、外見こそ女性であるものの、雰囲気は人間のものではない。
おそらくは魔物の類。しかも、凡庸な魔物とは一線を画した何かが感じ取れる…
「ゴルベーザ様の命だ。すぐに、御前を呼んで来いってな。」
やはり自分は運という点に於いても、強い女なのかもしれない。
ようやく自身の気持ちを整頓して、実質的な動きを始めようとした際に、願ってもないチャンスが訪れたのだ。
これを運がいいと言わずして何を言う。有頂天ながらもローザは思った。
「それに……私個人からも聞きたい事があるしね。興味も……」
珍しく明るい思考が頭を占めていたので、その言葉の意味を深く知ることは出来なかった。最も理解しようとしても
人間には理解できぬのかもしれぬが。
「わかったわ」
そう言って小さな首肯をしてローザは歩きだした。

聖域<いつわり>を捨て去り未来<しんじつ>へ――それが今の成すべき所業。
その光は今開かれた。

54 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/03/26(木) 00:26:48 ID:PNBU7+kP0
タイトル変わらず25です。

55 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/03/29(日) 03:16:07 ID:FSR8PJOn0
>53
乙。
Two of usってセシルが思い浮かべたフレーズだったけど
幼馴染だけあってローザも似たような発想するのかw

56 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/04/07(火) 15:04:59 ID:194vwVCH0


57 :299:2009/04/14(火) 15:13:09 ID:B1cQkZ8u0
額からだらりと汗が流れる。視界がぼんやりと滲み、足がふらつく。
最近何度も見舞われている症状だ。
口ではいくらでも強気な言動は出来るが、体は正直だ。
自分の体なのだ。自覚しないわけはない。
もはやこの体は――
だが…ここで倒れる事など、決してあってはならぬ。自分にはどうしても為さねば
ならぬ事がある。
残された時間はもはや僅かなのだ、残り僅かなこの灯火の一欠けらでも多くを奴にぶつけて
やらねばならない。
塔の中枢部へと進むにつれ、その感情はますます高ぶりを見せ、自然と歩幅も大きくなっていく。

「!」
瞬時に体へと激痛が走り、テラは声にならない呻きを漏らした。
「テラ殿! 大丈夫ですか?」
気の利くモンク僧はすぐにでもテラを気遣った。
「心配するなヤン――ご老体の我儘じゃよ。無視してくれ」
とてもでないが歳だけのせいにするには無理があったが、精一杯に強がって見る。
「本当か?」
いつもはテラに対して軽口を叩くシドも珍しく心配の様子だ。
短い付き合いながらも、幾多の運命の巡りあわせにより、腐れ縁という関係にまで昇華した彼には
苦し紛れの言い訳など通じないのであろう。
「何所かで体を休まれるべきなのでは?」
ヤンが周囲へと視線を走らせる。
「いや、一刻も早くローザを助けるべきだ! そうは思わぬか?」
ヤンの提案をシドへの疑問へと変える。
「ああ、勿論それはそうじゃが……」
ローザを愛娘の様に可愛がっていたシドだ。親バカとでも呼べる熱血っぷりでローザ奪還への闘志を燃やして
くれるものだと期待してのだが、どうにも釈然としない解答だ。

58 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/04/14(火) 15:15:33 ID:B1cQkZ8u0
実際のところテラにとってローザを助ける事やカインの事などどうでもよかったのだった。
先程の提案も先を急ぎたいばかりに出た方便なのだ。彼にとって目的はただ一つ。
生涯愛するべき存在であり、自分の生涯を看取ってくれる存在である愛娘――アンナ。
彼女を自分のような老い耄れよりも先に、先立たせてしまった戦争……バロン国であり、赤き翼でありギルバートで
ある点を結ぶ線――ゴルベーザ。奴への復讐ただ一つなのである。
だが……復讐の旅の最中、セシルやポロムとパロム、ヤンやシド……ギルバート達と言った仲間達に出会うにつれ、少し
だけ復讐のためだけに行動する自分に情けなくなっていた。
仲間たちの誰もが自分や他の仲間達の為に気持ちを押し殺していた。そして時には自らを犠牲にしてでも仲間の窮地を
救う時があった。
当然ながら、テラ自身も悲しみにくれる時があった。だが、いつもそれ以上にゴルベーザへの憎しみが勝っていた。
復讐ただ一筋。まるで自分の事しか考えていない自らの所業に対して、少しづつながら嫌悪感が生まれていた。
そして、時折自分の成すべき復讐に疑問を抱く時間が生まれた。今まで自分は全ての点を結ぶ存在をゴルベーザと見ていた。
それは本当に正しかったのか? ゆっくりと考えて見れば、奴が何者であるのか自分はまだ何も知らないのではないか?
もしかしたら奴さえも、クリスタルを巡る一連の騒動から見れば一つの手駒に過ぎぬのではないのか。
何度か考える時もあったが、体が疼く度に、復讐心が蘇り、テラの疑問は吟味されるものの、確信をえた考えにまとまることは無かった。

59 :たまには前に呼ばれてた名で:2009/04/14(火) 15:20:47 ID:B1cQkZ8u0
入れ忘れ

タイトル変わらず>>57-58合わせて26です。

60 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/04/14(火) 15:42:15 ID:B1cQkZ8u0
一応…今更ながら報告

◆iGPNkGtkB2さんお疲れ様です。wikiの方にも追加しておきました。


61 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/04/29(水) 02:33:24 ID:ll3wplQ4O


62 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/05/09(土) 16:43:35 ID:/dek5XXP0
変わる世界 交錯する言葉27

「とにかく大丈夫じゃ! 先を急ぐぞ」
何度この言葉をいっただろう。
それだけ言って、テラはまた率先して先へと進む。
焦りにより歩幅を速める最中、どこからともなく笑い声が漏れた。
だがそれは、年配者達のやりとりを微笑ましく見守るような笑いではなく、まるで
こちらを嘲うかのような薄笑いであった。
「誰だ!」
テラは瞬時にそれが悪意ある者の声であると断定した。
先を急ごうと思う焦りと敵を前に気が立っている自分の早計な判断であったかと思ったが、
振り向くとヤンも今の声をよからぬ者と認識したのか、戦闘の構えをとっている。
「そんなに怒るなっての……!」
「そうそう……私達がわざわざ出向いてやったのよ」
聞くと。声は一つではなかった。
「のう姉じゃ?」
声の一つ――幼い子供の様に聞こえる声が言った。
「クリスタルは私等でいただく! 我ら姉妹のデルタアタックでローザとお別れさ!」
もう一つの声――先程の声よりかはいくらか年上の声が言った。
姉妹と名乗っていることから見てもやはり声は複数によるものだ。それに今、はっきりとローザ、そして
クリスタルと言った。
「やはりゴルベーザの奴、刺客を差し向けてきたか!」
ローザと言ったからには奴の手の者である事は間違いない。それに、クリスタルを頂くと言ったのだ。
どう考えても此方に好意的な者達ではないだろう。
衝突は避けられない。そう悟ったテラは威嚇をこめて言葉を放つ。
「少し違うな……私たちはこの塔を司る四天王風のバルバリシア様の片腕……メーガス三姉妹!
まあ、ゴルベーザ様の命であることは間違いないのだがな……」
「何用だ……と聞くのは野暮というものだな?」
「察しがいいな、クリスタルは私達が此処で頂く!」
クリスタルはテラが持っていた。セシルは持っていてくれと頼んできたので自分が持っていた。
「メーガス三姉妹の三女ドグ!」
姿を現した。一見幼い子童のようだが、間違いなく邪悪な気配を漂わせている。
「私は次女ラグ!」
同じく、先程の年上の様な声の者が姿を現す。やはり声の印象通り、ドグとは親子程の違いのある背丈だ。
「そして私が長女のマグ!」
先程から二人を取り仕切っているであろう声の主であろう太めの女性が姿を現す。一見すると次女ラグの方が長女らしく
見えるが、口調や貫禄を見れば彼女が長女であると推測するのは難しくない。
「我ら姉妹のデルタアタックでローザとお別れさ」
デルタアタック――矢継ぎ早の紹介が済まされた後、彼女らはそう言った。
その言葉を聞くとテラのしかめっ面にふっと笑いがこぼれた。
「何、何がおかしい!?」
メーガス三姉妹の誰からともなく驚きの声が上がった。予想外に余裕のある老魔道士に多少の揺らぎを
感じたのだろう。
「私にその手は通じんよ」
すでに一度くらっている。それに賢者と呼ばれた自分にとってはお見通しである。
そしてこんなところで足止めなどくらっていられない……そしてここで朽ちるなどあってはならない。
「それにローザの想い人はここにはおらぬぞ……残念だったな」
「ええい、そのような口上はどうでもよいわ! 姉じゃ!」
「ああ、ドグ頼む!」
「いくぞ!」
「いまだラグ!」
やはりな、今の自分にはすべて見通せる。これも死にゆく者の勘であるのか……

63 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/05/09(土) 16:44:39 ID:/dek5XXP0
変わる世界 交錯する言葉28

「デルタアターク」
反射された魔法が対象へと向かう。
「散れ! ダメージを分散させろ」
あくまで冷静を貫いたまま、テラは後ろ二人へと指示を出す。
「はい!」
「おう!」
すっかり取り残された感のあった二人であったが、急な事態にも迅速に対応していた。
「よし……それでいい。受け取れ、聞こえているか?」
ヒソヒ草を取り出し、シドとヤンに投げ、問いかける。
ギルバートの手渡した物を利用するのは、いまだ気がひけたのだが、さっさと物事を終わらせたい一心がテラの
執着心を揺るぎさせていた。
「奴らのデルタアタックを打ち破る。いいか……まずはマグをねらう」
「どいつじゃ!?」
「奴らの身の口上を聞いとらんかったのか? まあいい……長女じゃ、あの大柄の」
「わかりました」
ヤンが言った。
「デルタアタックというのは自らにリフレクの呪文を使う。そして、そのリフレクの障壁を使ってこちらへと魔法を
向ける。こうすることによって、自分達だけが魔法の恩恵を受け、相手には魔法を聞かなくする。相手方に魔道士が
いる時によくつかわれる戦法だ……私のようにな」
「…………」
「どうやら障壁を張っておるのはあの長女だけのようだ。後の二人が――正式にはあの小柄の者が長女に魔法をかけ反射の役割を
になっておる」
おそらく、長身の方は回復、補助を担当しているのだろう。テラはそこまで判断はしたが混乱を避けるため、補足説明はしなかった。
「だったらまずは他の奴から倒してしまえばいいのではないのか?」
「よく考えてみろ? それが罠なのだ」
「どういうことですか?」
今度はヤンが問い返す。
「次女、三女に担当を振って、あの長女側は何もしてない。あの三姉妹がそこまで無策で来るとは思えぬ、ここからは完全に
推測なのだが、おそらくは蘇生担当なのだろう。そうどちらかがやられた時に蘇生魔法で蘇らせる……デルタアタック戦法の
リターンである攻撃要員に目先をむけさせて、先に潰させる。やっとこさ倒したと思ったらすぐに復活。こちら側を疲弊させる
それは奴らの狙いであろう」
「なるほどな」
盲点だったとばかりにシドが合点する。
「では頼むぞ」
その一言に二人は頷くと、すぐさま三姉妹――デルタアタックの中心部である、長女マグへと飛びかかって行った。
「姉じゃ!」
ドグが驚きの声をあげた
「見すかされたか……」
咄嗟に判断を切り替えシドとヤンの迎撃体制を取るマグ。
だがいきなり襲いかかれては成すすべもないのだろう、じわじわと二人がマグを押し始めた。
こちらの勝利は時間の問題だろう。
「姉じゃ!」
「……!」
障壁さえなくなってしまえば後は自分でなんとか出来る。
困惑しきった残り二人にテラは自分を殺さない程度の魔力で魔法を打ち込む。そう……<自分>を殺さない程度に。
「デルタアタックが破れるとはー!」
「姉じゃ〜!」
「馬鹿な……」
それぞれに繰り出される言葉を尻目にテラは思う。
「こんなところでやられる訳にはいかない……」

64 :こそりと:2009/05/09(土) 16:47:00 ID:/dek5XXP0
変わる世界 交錯する言葉29

「テラ殿、助かりましたよ。あなたの提案がなければ今頃我々は……」
「本当だな。今回ばかりは感謝せねば」
繰り出される感謝の言葉。だが、それは老魔道士に聞こえる事はあったが胸に響く事はなかった。
「そうか……」
小さくそれだけ言ったテラはまたしても、ゆっくりと歩きだす。
「おいおい! そっけないぞ!」
あまり無関心なテラの腕をシドが引き止める
「――――」
瞬間、彼は言葉を失った。テラの腕は酷く痩せこけていた。それだけではなく皮膚もまるで枯れ木のような
色になっており、常に震えていた。
「離せ……」
これはどうしたのだ?
いつものシドならそう聞けただろうか? おそらく出来たであろう。
だが、今の鬼気迫るテラを見てシドは無言を貫き通すしかなかった。
「どうしましたか……」
ただならぬ気配を感じたのか、ヤンも謙遜とした口調で訪ねてくる。
「奴はテラは……死ぬつもりなのかもしれん」
「なんですって……」
すぐに追いかけるべきだろう。
だが、二人はしばらくの間、どんどん小さくなっていく老人の後ろ姿をただ黙って見守り続けるしかなかった。

65 :ひさしぶりに:2009/05/09(土) 16:48:48 ID:/dek5XXP0
変わる世界 交錯する言葉30

「それで……ローザは?」
「ああ……言う通りにしといたよ。でもいいのか……ゴルベーザ様?」
ゴルベーザ――現在の自分にとって従うべき対象である者の前でも、彼女の言動はいつもとは
変わらぬぶっきらぼうな口調を貫き通している。最も様付けする事は欠かさないのだが。
「どうした?」
「いや……ゴルベーザ様? あのままローザを始末するんですか?」
「承知の上なのだろう? お前もカインも?」
「…………」
ゴルベーザの命令は彼女にとっては絶対である。勿論彼女もそれに反抗するつもりはないし、不満も
持った事などない。今までもこれからも……
「あの女の安否など私にとってはどうでもよいクリスタルさえ手に入ればな……そっちの方はどうだ?」
「……ああ、私の方から手下を差し向けたよ。優秀だから首尾よくやってくれるさ」
メーガス三姉妹。風の四天王である自分の片腕。このような状況では最も信頼を置くと言っても過言でない。
その絶対的な信頼により、バルバリシアが彼女達を心配する気持ちは殆ど無かった……
彼女の思考の殆どは未だかつてない程に一つの考えによって縛られている。
カインとそれを取り巻く者達、セシルとローザ。その片鱗であるローザとのコンタクトをバルバリシアは
以外な形で手に入れることとなった。
否、正確には予想していた事。それが想像通り訪れただけなのだが……

<ローザを始末する>
ある時突然ゴルベーザがそんな事を言い出した。
「ローザ? あのカイン達と一緒にやってきた女の事ですか?」
「詳しいな」
カインに興味を示すうちに辿り着いたその名は想像通り監禁されていた女性であった。
「初めから始末するつもりだったのかい?」
「そんな事はどうでもよい。クリスタルが手に入ればな。それに私に歯向う者は早めに始末した方がいい」
「クリスタル交換するってのは嘘だったのか?」
「過程などはどうでも良いのだよ!」
つい最近自分も同じような事を言ったような気がする。彼女はその問いに返答しなかった。
前提として彼女はゴルベーザには逆らうつもりは毛頭無い、彼が何を考えているのかも興味は無い。
そして何より、彼女――ローザに近づく願っても無い機会だったからだ。

66 :もうちょいペースあげたい:2009/05/09(土) 16:50:23 ID:/dek5XXP0
変わる世界 交錯する言葉31

ゾットの塔最上階。その中の最深部に属するこの場所に彼女は縛られていた。
<ご苦労だったな下がって良いぞ>
ゴルベーザ労いの言葉を受けたバルバリシアは、少し様子を見てくると言ってその場所へと赴いた。
「元気かい……?」
たった数分振りの再開、それにこのような状況に於いてはひどく場違いな声掛けだ。
「バルバリシアといったかしら?」
彼女に返答する声はバルバリシアと瓜二つであった。
「ああそうだ……よく覚えてくれてたねローザ」
最初彼女と話した時は驚いた。初見の印象で彼女は自分にそっくりなのであった。
魔物と人間という相容れぬ存在であるのだが顔の印象はそっくりであるのだ……双子のような瓜二つ
とまではいかなくとも、初見ならば見違えてしまうかもしれない。
それに声色――これは外見以上に聞き間違えてしまう程に似ていた。
「私を殺すつもりなの?」
「不満かい……?」
自分に似たローザに親近感を感じてか、彼女にしては珍しく穏やかな口調で返す。
彼女を見す見す見殺しにしてしまう事。それはバルバリシアにしても本意ではなかった。
だが、彼女にとって命令違反を犯してまでのリスクを伴ってさえ、彼女を助けようとする気はない。
二律背反の矛盾した気持ちだが折角彼女と話す機会が訪れたのだ、吉とでようが凶とでようが彼女の
事は静観しようが恨むようなことはしないだろう。
「誰だって嫌だわこんな所に縛り付けられて死を待つだけなんてね……」
上空に備え付けられた巨大で鋭利な<それ>を見て物憂げそうな表情で話すローザは予想外にも恐怖は感じている
ようには見えなかった。
「でもまあ……偉く気丈に振舞ってるじゃないかい?」
バルバリシアも人間と呼ばれる者と話す機会はこれまでに全く無かった訳ではなかった。
だが死を身近に感じた人間は例外無く、失望や絶望に暮れ、世界の全てを恨むかのような表情を見せていた。
<お前一人がどんな憎しみを見せようが世界は変わらないのに……無駄な行動だ>
そういう想いを抱きつつ、バルバリシアは幾つもの末路を静観してきたのだ。
脆弱で小さな者達、哀れみ苦しみ、何処に届くこともない恨み節を残して息絶えるのが自分にとっての人間のセオリー
であった。
「まだ死ねないわ……」
「へえ言うねぇ、そんな御身分なのに?」
その自信はどこから来るのだ? 所詮はただの空虚な強がりなのか? 何故恐怖しない? 様々な意味を込めた疑問だ。
「やらなければならないことがあるのよ――セシルにもカインにもまだ何も言っていないのよ」
「…………!」
自分が聞きたい方向に話は核心へと近付きつつあるようだ。バルバリシア思わず息を呑んだ。

67 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/05/09(土) 16:51:32 ID:/dek5XXP0
変わる世界 交錯する言葉32

「今までの私では駄目だった。だけど今なら言えるわ! どんなに遅かろうが、どんな状況だろうが言わなければ駄目!
本当の……」
「でもあんたはどこにも行けない……行くことが出来ない!」
揺らぐことも曇ることもなさそうなローザの言葉に対してバルバリシアは語気を荒める。何故そうなったのかは自分でも
良く分からない。だが、焦燥にかられているのは間違い無く自分だ。
「分ってるわよそんな事……でも以前の私とは違うのよ」
「カインと言ったかな……奴は此方に付いたようだが?」
バルバリシアは紛れもない事実を突き付ける。否定する事が出来ないだろう。
「そうね……でも彼は他人」
「大切な人じゃなかったのかい!?」
質問をはぐらかされたような気分がしてバルバリシアは語気を荒める。実際は平静さを保っている彼女に対して――否定も肯定も
しないセオリー外の態度を取る彼女にどうしようもない苛立ちを感じ始めていたのだ。
「他人の気持ちなんて分かるわけないわ。解決するのは自分。悩みも苦労も自分でどうにかするの。幸せは自分で手にする。
無論、誰かの力を借りる時もある、でもそれは気休めよ」
もはやバルバリシアは黙って次の言葉を待つしかなかった。
「むしろ他人の目や気持ちを気にして自分を殺すことは不幸の始まりなの。しがらみに捕らわれた自分は、やがて他人も不幸に
していく、それは歯止めが利かなく広がってくのよ」
「いま奴らは……セシルとカインは戦っている!」
その口を閉じろと言わんばりにもう一つの事実を突き付ける。
「私のせいね多分」
あっさりとそう言った。
「何も思わないのか? 悪いとか……」
「当然、思ってるわよ。でもそれ以上に強いのは自分への嫌悪感。私はどっちも、二人ともが大切だった
しかし、一番好きなのは自分だった。だから傷つけることも出来なかったし、答える事も出来なかった
結局、それは一番の不幸を招いてしまった。失った時を取り戻そうとは思わない。大事なのはこれからなの」
「そうか……」
その言葉の全てを理解できたとはバルバリシアは思わなかった。
しかし、ローザとはこれ以上話していたくはなかった。彼女がとるに足らない存在だと思ったからか?
違う……このまま続けてしまうと、バルバリシア自身が平静を保っていられなくなると感じたからだ。
互いに価値観の違う者が、折衷案を出さずに長き時を友にすれば、どちらかが壊れてしまう。
そう悟ったバルバリシアは一言だけ言い残すとその場を退出するべく踵を返した。
「やっぱりわかんないね……でも今回ばかりは一泡食わされたって感じかな」
最後にそうとだけ言い残して。

68 :582-586:2009/05/15(金) 18:18:54 ID:zrhr+Wgg0
第1章 SeeD-69

「はい、お見事」
キスティスが小さな拍手え俺を出迎える。
「でも、あなたらしくないわね……」
「…………」
「油断はしない。それがあなたのモットーではなかったの?」
まるで全てを見透かしたかの様なキスティスの問いかけだ。
いつもの俺なら、むっとして皮肉めいた返し言葉をおくったのであろう。
「…………」
しかし、俺は無言を貫いていた。今の俺にはさっきの女性の言葉に対する疑問で頭が一杯であった。
「ちょっと……どうしたの?」
今はもうその肩書きを失ったとはいえ、キスティスは優秀な教官であった。
いつもと違うぞといったノリである俺に違和感を感じたのであろう。
<別に……>
<なんでもない>
<放っておいてくれ>
はぐらかそうと思ったが彼女の事だ……すぐにでも見透かされて俺の手のうちを読まれるだろう。
「こちらにいましたか」
俺とキスティスの微妙な沈黙は外部からやってきた声によって打ち切られた。
助かった。誰かは知らぬ来訪者に感謝したい気持ちだ。
「全く……人騒がせな人だ」
無感情というよりは無機質な声と共に男が二人入ってきた。
前言撤回しようか。新たにやってきた男たちも俺の心を決して安らがせてはくれないだろう。
根拠の無い推測じみた台詞はどちらかというと好きでない方だが、直感的にそう感じた。
二人とも小奇麗な白い軍隊服――ちょうど俺達SEEDの制服に近いような服装に身を包んでいる。
男達は奇麗な足取りで、俺の悩ませていた少女に近寄った。
「ここは危険です。さっ……速く」
そう言って男の内の一人が、真新しい白い手袋に包まれた片手を差し出す。
「わかったわ……」
少女の方は、少し悩んだ後にその手をつかんだ。どうもその表情は釈然としないようだが……
かってに時間外にこんな場所に来たことがばれたのが恥ずかしいのか? それとも見つかったことにより罰を科せられるのだろうか?
それなら自業自得だ。せいぜい反省するんだな。だが、いきなり現れたこの男達は誰なのだろう? 制服教論達ではない。
そもそも彼らならこんな違反行為を見つけたのならいきなり声を大にして怒り出すのだろう。
まあ何にせよ、彼女にとって今のこの状況は不本意なものであるらしい。

69 :582-586:2009/05/15(金) 18:23:07 ID:zrhr+Wgg0
「あ……あなた方でしたか彼女を助けてくださったのは」
俺がどうでもいいような考えを張り巡らせているともう一人の男がこちらに向き直り、慇懃無礼な会釈を交わす。
「いえ、教官としてこのくらいの事は当然です」
男の律儀な謝礼に勝とも劣らぬともない位にキスティスはきびきびと返事を返す。
その言葉には嘘が交じっている。
正確にはもう教官ではないのだが……? 見ると彼女にも自覚があるのか、真面目な表情に悪びれるように舌を出していた。
堅物に見えるが……意外な面もあるのだな。
「ほら」
考える俺に視線を向けている。
「ああ」
俺も礼をしろということか。確かにそれが礼儀というものだろう。慌てて俺も男達に礼を返す。
思えば今日一日はほとんどキスティスと一緒であった。いつの間にか彼女の一声が何を言いたいのか咄嗟に判断できるようになっていた。
彼女のペースについていけているようになったのか。あまり嬉しくはない。
「…………」
さっきから俺はどうでもいい事ばかり考えてる。無理もない、いきなり見知らぬ女に自分の名前を呼ばれたのだ。
俺としてはあまり気分のいいものではない。考えてもわからぬのなら、できるだけその事実を頭の隅に追いやりたかったのだ。
<今直接彼女に聞いてみればいい?> 
心でそんな考えがあったものの、なかなか口にだせない。こういう時にゼルならすぐに質問するだろう。
あいつの性格が少しだけ羨ましくなった。 
「では我々はこれで」
女の手を持った方の男がそう言った。白い服の男達は、互いに声が無機質なので、聞いただけではどっちが喋っているのかわかりづらい。
「では」
慇懃無礼な男の方が踵を返し立ち去る。
続いてもう一人の男が立ち去る、途中女と俺達がすれ違う。
「ありがとね――またね――」
「――――!」
その瞬間発せられた言葉は俺とキスティスを凍りつかせた…
彼らが立ち去り、入口の自動ドアが完全に閉まりきった後でも、俺とキスティスはしばらくの間人口のサバンナに立ち尽くしていただろう。
「誰なの」
ようやくキスティスが口を開く。
「さあ」
自問自答なのだろうが、俺はつい返答していた。
確かに彼女はこう言った

――またねスコール、キスティス

70 :↑seed70です:2009/05/15(金) 18:24:09 ID:zrhr+Wgg0
第1章 SeeD-71

消灯時間からどれくらいたったのだろう。
さすがの秘密の場所へと入り浸る連中もお開きの時間なのだろう。
秘密の場所の一角に立ち尽くす俺達を尻目に幾つものグループが歓談と共に就寝するために帰路へとついていく。
俺達はしばらく動けなかった。キスティスも動かなかった。
こういう時、セルフィ辺りでもいればすぐにでも何かを言って帰ることができたのだろう。
だが俺とキスティスだ。一度つぼにはまって考えてしまうとなかなか動きだすことができない。
結局、俺達がようやく帰路につこうとしたのはあれから三十分程してからだろう。
AM2:00前後それくらいだっただろうか、蛍光灯がまばらに点滅する薄暗い廊下を俺達は歩いていた。
「私ってやっぱ生徒の間じゃ人気者なのかしら」
自惚れた言葉だ。だが、この場合は疑問を納得させるためであろう。
「スコールも、サイファー……風紀委員とやりあってるからね」
「悪かったな」
それだけ言って後は黙った。
もうさっきの女性の事は考えたくなかった。
「そうね」
察してくれたのかキスティスもそれっきり何も言わなかった。
深夜の沈黙した廊下に、靴音だけが響く。
「じゃあ……スコール付き合ってくれてありがとう」
訓練施設とガーデンの結ぶ廊下も終わりにさしかかった時、再びキスティスが口を開いた。
「あ、それとね最後に一つ。誰だって一人で生きてるわけじゃないんだから……」
さっきの秘密場所で俺が言った言葉への返答のつもりなのだろう。
<不満や悩みなんて壁にでも話しかけてろ>
こんな感じだったか。
「あ、返事はいいからね。今日はこれで終わり、だから最後に一言って意味。否定も肯定もしないで。
教官としての説教としても、とらなくていいです。ただの一個人の一意見ってことで」
それだけ言って颯爽と歩きだす。
「また明日から頑張ろうね」
帰路の分岐点。最後に振り返りそれだけ言い残して。
俺は何も言わなかった。
ただ心の中でこう思った。
<そんなこと誰が決めたんだ?>

71 :582-586:2009/05/15(金) 18:25:17 ID:zrhr+Wgg0
結局、秘密の場所への来訪は俺にとってまた一つ悩みを増やすだけであった。
憂鬱気味になった俺は足取り重く、学生寮への帰路を歩いていた。
学生寮へと続く渡り廊下。先ほどの訓練施設までの道と違い野外を通してつながれている。
夜風が俺に降り注ぐ。少し憂鬱な心も風が洗い流しているようで気持ちがいい。
「ん?」
深夜のフクロウのコーラスをバックに、SEED制服に身を包んだ者が場違いに立ち尽くしている。
「よう、スコール」
ゼルだ。
勘弁してくれ……また憂鬱な要素か?
なんでこんな時間に? ただでさえ今日は色々あって疲れているというのに。
「ゼル。まだそれ着てたのか?」
早く退散してもらいたい。そういう一心で俺は少し嫌味な言葉を言った。
「ああ……SEED服な。せっかくの目出度い日なんだからさ、なんか脱ぐのがもったいなくて」
なぜ照れるのだ? どうもこいつは能天気が過ぎるようだ。
「それにさ、お前に用があったからここでこうして待っていたんだ」
「何だ?」
降参だ、俺はもう疲れている。さっさとベットに潜り込んで眠りにつきたい。
寝れば一時しのぎだが、今の様々な悩みが絡み合ってる状況から解放される。
だから早く用件を言ってくれ。
「おう! 喜べ。SEEDになった今日から俺達は個室をあてがわれたんだぜ」
身の凍りつくような気分になった。
「それだけか?」
率直に言葉を返す。
「知ってたのか?」
「勿論」
その為に荷物整理もしていた。
むしろ知らない方がおかしいのではないかとさえ思う。
「そうだったのか。すまねえな。無駄な話になっちまって」
何故謝る。
「いつから待ってたんだ?」
無駄なことを聞いてみる。早く帰りたい気持ちなど無くなってしまった。
「ああ……パーティーの方に最後までいたからな、そこから自分の部屋に戻ってすぐだから……
AM00:25くらいからだな」
丁度俺が秘密の場所へ言ったばかりの時間だ。入れ違いになったようだな。
「ずっと待っていたのか?」
今がAM2:10だ。とすると二時間近く待っている事になる。
「悪かったな」
呆れるよりも先に謝罪が出た。
「いやいいんだぜ。友達なんだからさ」
「友達?」
寒気のする台詞だ。
「だろ?」
「俺は思ってない……」
「だって一緒にSEEDになったんだぜ、もう何かの縁だぜ! だから友達って事で、ニーダの奴もそう
思ってるらしいし」
ニーダ。誰だそいつは?
声に出る前に思い出した。
今回SEED試験の合格者は四人。
ニーダは俺達二人やセルフィと一緒に合格した奴のことか。
「ま、正直あのでっかい蟹野郎に追い回されてた時はサイファーとお前を恨んでたんだけどな」
悪びれもなく酷い事を言う。というかそんな事を考えていたのか……あの時。
「でもま、喉元すぎればなんとやらってことさ」
「じゃ、サイファーも友達だな……」
「それは勘弁してくれ!」
いつになくおびえた表情だ。
「あいつ風紀委員で俺は良く睨まれてたんだからさ……正直班長があいつだった時、俺――」
「ふ……」
俺は苦笑した。

72 :582-586:2009/05/15(金) 18:27:23 ID:zrhr+Wgg0

第1章 SeeD-71

また入れ忘れ…


第1章 SeeD-72

「それじゃ、言いたい事も言ったのだろう。俺は帰るぞ」
そう言ってそのまま足を進める。
「言っとくが俺は友達とは思ってないからな」
つい余計な一言が出る、あんな事言われたら黙ってはいられない。
「じゃ、仲間だな」
「……それも却下だ」
「これからなるかもしれないぜ」
「知らん」
それだけ言って俺は足を速めた。
「正直なに考えてんのかわかんない時もあるけどさ――」
遠巻きにゼルの声が聞こえる。
「俺は思ってるからな」
友達の事だろう。
「ふ……」
俺は再び苦笑した。

部屋に帰るとそのまま倒れこむようにベットへと向かった。
個室になってまた部屋の使い勝手も変わるのだろうが、今はそんな事を確認する
元気もなかった。
俺はベットにもぐりこむとすぐに瞳を閉じ眠りにつく。
色々あって寝付けないだろうと思ったが、すぐに眠りはやってきた。
最後にゼルと話したのが寝付きをよくしたのかもしれない。
俺はすこしばかり奴に感謝した後、そのまま眠りへとついた。

73 :582-586:2009/05/15(金) 18:32:27 ID:zrhr+Wgg0
第1章 SeeD-73

翌朝、早朝。
俺は目覚まし時計がわりにセルフィの声で叩き起こされる事になった。
「初仕事、初任務、SEED出動〜」
似たような言葉を繰り返す彼女の声にうんざりしながらも俺は規定時間よりも早く
カードリーダ前まで行くことになった。
既にシド学園長に制服教論二人がそこには待っていた。
「まだ時間があるだろ……」
俺が愚痴をこぼすと彼女はこういうのは早くくるのが当然だと返してきた。
じゃあゼルはどうなんだよ?
そう言おうとした際、すぐにゼルはやってきた。
だが、俗に言う不要物と一緒になのだが。
「没収!」
制服教論が自分達の役目がやってきたとばかりにゼルからそれをひったくる。
「なんだよ、役に立つかもしれないだろ」
だが、その願いは聞き届けられなかった。
「こほん」
わだかまる雰囲気を断ち切るかのようにシド学園長が咳をする
「いいですか、あなた方三人はこれからティンパーに行ってもらいます……」
学園長の長い言葉が始まった。
かい摘んで説明すると、ティンパーの組織の手助けをする事、低料金の引き受けの為、俺達三人だけで
いかなければならない事、組織とやらの合言葉『まだフクロウはいますよ』、そして俺がこの組の
班長であること……
なんで勝手に決まってるんだ?
最後だけは抗議したい気分にかられたが、残念ながら俺が一番適任だったということは自分でも良く分かった。

74 :582-586:2009/05/15(金) 18:33:39 ID:zrhr+Wgg0
「さあ旅立ちなさい――」
シド学園長の一声で俺はバラムガーデンから出発した。
ガーデン校門前にはレンタカーが一台用意されていた。最寄町のバラム街で借りてきたものだろう。
まずはこれに乗って、街まで行けということなのだろう。
徒歩だと結構な時間のかかる街までの距離だが、車を使えば、五分程度で辿りつくだろう。
その後レンタカーを返却後、バラム発の大陸横断鉄道に乗ってティンパーまで向かうのだ。
「チケットもこの通り、三人分揃ってます〜」
レンターカーはゼルの運転していた。
俺とセルフィは後部座席に揺られていた。
セルフィは嬉々としながら列車チケットを見せびらかせてくる。
まるで遠足気分だ。
見ると、バックミラー越しから見える、運転席のゼルの表情も明るい。
街はゼルの母さん達がいるからか? 大陸鉄道の出るわずかな時間しか街には滞在しないのだが。
「まあいい」
俺は一人ごちた。
俺自身も悪い気がしないでなかった。
昨日は憂鬱な一日であった。思えば早朝からサイファーと傷をつけ合っていたのだ。
それに比べると、今日の始まりは穏やかだ。
「最も、任務の為だ、遊びに行くわけではないのだがな……」
レンタカーの窓を開ける、島国の潮風が髪をなびき頬に触れる。
心地のいい風だ。見ると海の幸を売りに観光都市として栄えるバラム街へと歓迎する看板が視界に見えてきた。
もうすぐだ……段々と街が大きくなって視界を支配する。
今日はなにか特別な日になるかもしれない。
吹き抜ける潮風と穏やかな日溜まりを受け、俺は予感じみた考えと共に微笑した。

一章 seed

<了>

75 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/05/15(金) 20:43:07 ID:zrhr+Wgg0
スレ復活していたのにきづいて久し振りに投下。
以前中途半端な所でとめていたので駆け足気味ですが一章終了まで。
自分の今の早さではなかなか書けないので、一旦きりの良いところで区切っておきたかったので。
なのでこの先続きを書くかどうかはきめていません・・・(書かない可能性が高い)
まだヒロイン(リノア)も出てないし、重要なラグナ編にも入っていませんが・・・(苦笑)
リレー形式なので新たな書き手が来ればいいという期待して投下を終わらせてもらいます。

76 :299:2009/05/29(金) 22:47:31 ID:hYKu2KgJ0
穿つ流星1

「ようやく来たか……」
待っていたとばかりにゴルベーザは声をかける。
「どうやら一人だけのようだが……」
「一人で十分だ」
実はテラにとってその姿を実際に目にするのはこれが初めてであったりする。
しかし奴が自分の追い求めている人物であることは全く疑うこともなくわかった。
「強がるな……クリスタルは持ってきたのか?」
あくまで約束だとばかりにゴルベーザは言った。
「この通りだ」
見るとテラの衰弱した腕の中には濁る事なく輝き続けるクリスタルの光があった。
「どうやらきちんと条件は満たしたようだな……」
「約束だ」
ローザを返すのだ。そこまで言おうとしたが息が続かない。早く目的を果たさねば。
「ふ……」
そこまで言ってゴルベーザは不適な笑みを浮かべた。
「何がおかしい!」
「お前にとってはローザはかえしてもらわなくてもよいのではないか?」
「何だと!」
「ローザはお前にとって大切な存在では無い。セシルにとっては大切な存在ではあるがな……」
真理であった。
確かに自分はこ奴を倒す為、復讐の為だけにここに来たといっても過言ではない。
「そうお前はローザなんて関係ない、ただ私を倒したい一心だけしかない……
他人の大切な人などどうでもいいのではないか?」
テラは何も言い返せなかった。最も浮かぶ言葉があったとしても、今の元気では何も言えないであろう。
それに復讐心が何よりも大きい。もはや目の前の相手に冷静に話しをする気持ちすらおこらない。
「アンナといったかな……お前はその娘が一番大切だった。何よりもな……だから娘の命を奪った私を――」
「黙れ!」
見透かされている、自分の気持ちを。恐怖は無かった。それより先に怒りがました。
「お前はそうやって……人を気持ちを断定して、上から見て……好き勝手に弱みに付け込む――
どこまでも汚い奴だ! ぐっ!!」
長い台詞をいうと口が苦しくなった。少しばかり血がこぼれた。
「くっ!」
唾と一緒に血を吐き出し更に続ける。
「もはや許さん! 思い知るがいい! アンナの痛み――」
「そんな老いぼれた身に何ができる?」
感情的なテラに対し、ゴルベーザはどこまでも冷静であった。
「うるさい!」

77 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/05/29(金) 22:49:28 ID:hYKu2KgJ0
穿つ流星2

体に喝を入れ魔法を詠唱する。

ファイガ――炎の最上級魔法がゴルベーザの身を包む。
ブリザガ――凍てつく氷結の刃が漆黒の鎧を貫く。
サンダガ――幾多もの稲妻の渦がゴルベーザを囲いこむ。

そのどれもがすさまじい威力のはずであった――
ゾットの機械塔を切り刻み、幾重の爆風、爆煙が舞った。
だが、その中であっても漆黒の男は未だ、打ち倒す事は出来なかった。
「ほう……すばらしいな。たしかにこれでは私も完全に安全とは言い切れないな」
だが、危機的な言葉を口にするゴルベーザの言葉の影から常に余裕の言葉が見え隠れする。
「残念だが、これでは私を倒すことは出来ぬな。まずは、今の一撃は確かに見事であった。
だが、今と同じ程の威力の魔法を私に叩き込む事ができるのかな?」
「…………」
無言を貫くテラ。
確かに奴の言う通り、今の火氷雷の最上位魔法の一斉掃射は、渾身の一撃だという自負も
あった。出来ることなら今ので終りにしたかったのだが。
指摘通り、今と同じ威力の攻撃をもう一度繰り返せるか? 無理だとはいわない。
だが、それをすればテラの体は持たないであろう。
「そして、その老体の体は確実に衰えている。仮にもかつて賢者と呼ばれた者……実力は
この程度ではなかったのだろう?」
そうなのだ……先の最上位魔法は確かに強力であるのは間違いないのだが、白魔法黒魔法
両者においても、これ以上の威力をほこる魔法は存在する。
黒魔法最上位のフレア、白魔法最上位のホーリー。どちらもかつてのテラなら容易くとまで
はいかないにしろ行使できた代物なのだ。
「打つ手はないようだな」
またもや心の見透かしたかのようなゴルベーザの一言。
「では遊びはここまでだ。さっきも言ったが、ご老体に用は無い。もう少し使いどころが
あれば私の部下にしてやらなくもないが」
「あのカインという者のようにか」
「ふふふ……お前もなかなかの憎しみだぞ……」
やはり憎しみに捉われるとゴルベーザにつけこまれるのか――当然ながら自分が絶大な憎しみ
を抱えている自覚はテラにもある。
「利用するまでもないという事だな」
「良く分かっているではないか」
さらばだ。そう言ってゴルベーザも魔法の詠唱を始めようとするが――
「ふふふふふふははははははは――――」
突如テラが笑い始めた。苦笑でも悲しみでも嬉しみでもない。ただ奇怪なまでにケタケタと笑い続ける。
「死に損ないめ! おかしくなったか?」
ゴルベーザの方も予想外だったのか、驚いた反応を見せる。
「ならば良いだろう。私もようやく踏ん切りがついたわい!」
今度は大きく雄たけびを上げるかのごとく強気な怒声を上げる。
「この憎しみをありったけくれてやるぞ! この私の痛み、アンナの痛み! 全てお前にぶつけてやる
ぞ! 利用しなかったことを後悔するがいい!」
「強気だな! 何をするつもりだ!」
「時が訪れたのだよ……」
実際にこの場面がやってくることはおぼろげに想像しながらも、テラはその状況を具体的にイメージする
事はできないでいた。
だが……不思議なことに今ははっきりと想像できる。覚悟も出来た。

78 :299:2009/05/29(金) 22:50:26 ID:hYKu2KgJ0
穿つ流星3

「まさか……メテオか?」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったゴルベーザは自分から答えを導き出した。
「しかし、今のお前の体ではメテオを行使できるはずはない!」
珍しくはっきりと否定するゴルベーザ。
「ふ……」
幾度も続いたゴルベーザの指摘も、もはやテラには届いていないようであった。
「分かっているのか? あの魔法は特別なのだぞ! そんなものを使えば!」
黒魔法、白魔法。両者の全ての魔法を含めた中でも格段の破壊力を持つ魔法メテオ――
「構うものかい!」
いつもにまして曇りも淀みも無い口調のテラ。
「あれを食らえばこの体も持たぬかもしれぬ――」
「行くぞ!」
ゴルベーザの言葉の意味をテラはどこまで理解できたのか分からない。
「やらせるか!」
さすがの危機を感じたが、慌てつつも、咄嗟の判断でゴルベーザは攻撃を開始する。
いかにメテオといえど弱点はある。それは詠唱時間に多大な時間がかかる事。
ならばその魔法を行使する対象をつぶしてしまうしかない。
「!」
先程テラの唱えた魔法、火の最上級魔法ファイガをテラへとぶつけるはずだった……
だが、業火の炎はテラに到達する直前にかき消されてしまった。
「障壁……シェルか」
シェル、リフレクのように完全に魔法を返しはしないものの、受けるダメージを大幅に減少させる魔法。
「術者を狙ってくるのは計算通りのようだな……だが」
所詮軽減するに過ぎない、計算通りであっても計画性の無い行動だ。何度も防げるものではないだろう。
構わず魔法を連打する。

79 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/05/29(金) 23:00:06 ID:hYKu2KgJ0
穿つ流星4

「無事か!」
ゴルベーザとテラ。二人に割って入る影が二つ。
「テラ殿!」
「お前たちか――」
くぐもった声で返すテラ。
「すまなかったな! 少し遅れてしまった!」
その理由は最前までの戦いのただならぬ雰囲気のテラに気後れしてしまった為なのだが……その事に一切悪びれること
もなく、むしろ朗らかにシドは言った。
「私達も加勢しますぞ!」
ゴルベーザという巨大な敵との決着を感じ取ったのだろうか? 珍しくシドに負けぬ勢いでヤンが鼓舞の言葉を上げた。
「そうじゃ! セシルがおらぬが、一緒に戦えばやつとて――」
「いや――私は大丈夫だ――」
だが、老魔道士から出た言葉は、勢いづく二人の期待を無下にするものであった。
「なんだ折角来てやったのに!」
出鼻を挫かれた。怒りというよりもがっかりと言った感じの台詞であった。
「直に呪文は完成する。そうなれば周りの被害もひどい、何所か身を隠せる場所へと隠れておくのだ」
「ですがそれでは……」
テラの説明は不十分なものであった――実際、試練の山でテラと落ち合いメテオの存在を知っているものは、当の本人を除いて
ここにはいない。メテオ――その言葉の意味を知らぬのでは今テラが何をやろうとしているのかは完全には理解できないであろう。
「お前の身ももたぬぞ」
だが、道程の途中とは言え、その大半をつきあった二人だ。説明されずとも、言葉の意味を知らなくても、
段々と彼が何を考えているのかが分かってきていた。
「急げ! 奴の攻撃を続いている!」
三人のやりとりの間にも猛攻は続いていた。今はテラのはった障壁が身を守ってはいるものののんびりしていいものではない。
「私の負担になるつもりか!」
有無を言わせぬ物言いに、二人はただ黙って従うしかなかった。
「邪魔が入ったが……」
この場より遠ざかりつつある仲介者達への恨み節を吐きつつも、ゴルベーザは詠唱の邪魔をしようとする。
だが一向に障壁を貫ぬけない、いや……何度かはテラへと攻撃が当たっているはず。
「まさかこの老いぼれめ――」
把握した。正式には把握はしていたがそこまでのリスクをおかすとは。
「死ぬつもりか」
もはやあの生命力でここまで魔法を行使するなどできない。
「くらうがいい! アンナの痛みだ!」

80 :299:2009/05/31(日) 14:06:07 ID:auye8V050
穿つ流星5

瞬間、世界は震撼した――
世界中のありとあらゆる生物が異変を感じ取ったであろう。
一瞬の内に強大な魔力が世界の一点――ゾットの塔へと集約されていく。
それは一人の高名な賢者の全身全霊の想いと力。
それは復讐に燃える黒き炎。
それは愛する者を大切に思う人として当然の心。
様々な要素が含まれるその魔力を察知し、甚大な威力を誇る大粒の隕石状の物体が大空より大量に降り注ぐ。
ただ一点に。今紛れもなく世界の中心として動いている場所ゾットへと向かって。
その世界の中心で精一杯に自我を叫び、血肉を己の想いへと変えた賢者の気持ちに応えるべく。

ミシディアの中核にそびえる祈りの塔。ゾットより遥か離れた遠方の地でも巨大な魔力は感じ取られていた。
「長老これは――」
祈りに専念していた一人の魔道士が耐えかねたかのように話を振る――しかし、長老は無言を貫きとおす。
「間違いないわ――」
一人の魔道士が代理とばかりに返答し、話を続ける。
「メテオ」
誰かが言った。優秀な魔道士達の集約するこの場所において、そう結論づけるのにはさしたる時間がかからなかった。
「メテオだと」
正解だと言わんばかりに、複数の者達が一斉にその言葉を口にした。
最前まで沈黙の支配していた祈りの塔内部は既にざわめきの声が勝っている。
「長老!」
今度は先程に増して強く訴えかける者が一人。
「わかっておる」
重い口を長老は開いた。
「憎しみに捉われたのか――あれほどまでに危惧したというのに」
何か他の事に違いない。そう信じたかった。
だが、長老には分かってしまったのだ。誰に悔んでいいのかわからない。
「失礼しました」
長老の事情に詳しい者の一人が
「今は祈りの時――どんな大事であろうともそれは揺るがぬ」
慌てふためく周囲をその一言だけ言って静める。
「ですが……」
「言うな」
静かに言った。
戸惑いの支配する塔内部。彼だけは懺悔と行き場の無い悔しさを抱えていた。

81 :299:2009/05/31(日) 14:07:46 ID:auye8V050
穿つ流星6

やはりカインはカインであった。
たとえ心を操られていようが、槍先から繰り出される一撃は見間違うことの無いバロンの竜騎士のものであった。
以前、ファブールで相まみえた時は自分の気の動転せいや、カインが何故こんなことをするのか戦いながらも真意を探る事を考えてばかりであった。
そして繰り出された黒き一撃にカインはもはや自分とは違う……なにか黒き者に侵され染まりきって
しまった
しかし、今少しばかり冷静になって見ると、カインの腕は悪に染まりつつあっても、まだ竜騎士と
しての腕前は衰えておらず、消えていない。
その事が嬉しかった。だが、それと同時に観念的でない現実的な問題がセシルを困らせていた。
「このままではいつまでたっても――」
そう、実際に決着をつけた事はないとはいえ、セシルとカイン。互いに何度も切磋琢磨し合った仲なのだ。
実力的には五分五分。それも手のうちを知り尽くした存在。なかなか決着がつく訳がないのだ。
「どうする!」
このままでは両者疲弊を積もらすだけだ。だが……
<これで決める――>
「!」
そう思った瞬間、強い魔力の気配がセシルをよぎった。それは魔法を得手としないセシルにとっても分かるほどの
強力なものであった。
「カイン!」
「どうした! よそ見か!?」
いまだ戦いの渦中にあるといったばかりの意気を見せるカインにセシルは全力でぶつかって押し倒す。
「!」
「伏せろ!」
予想外の行動だったのだろう、不意打ちを食らったかのようにカインは姿勢をくずした。

82 :299:2009/05/31(日) 14:10:29 ID:auye8V050
穿つ流星7

砂埃と煙が視界を支配する。
「カイン」
おそらく近くにいるであろう友の名をセシルは読んだ。
予想通り、セシルが目を覚ましたすぐ近くにカインは横たわっていた。
「気絶しているだけか……」
それを確認してほっと一息つき、今度は周りを見回した。
「一体どの辺りなのだろう?」
一人ごちた。あれだけの爆風が訪れたのだ。遠くまで飛ばされていてもおかしくない。
それにしても……?
なんだったのだろう今のは?
周囲の確認をしていく内に、それの原因が疑問に浮かび上がってきた。
「まさか……テラが」
可能性は高いのではないか。ポロムやパロムも禁忌と言っていた魔法。
これほどまでの威力なのだ、並はずれた事態でない事は間違いないであろう。
「ここで待っていてくれ――なんて事はできないか……」
いまだ気絶したまま、目を覚まさないカインの肩を抱え歩きだした。
テラの身に何かが起こっていることは確かだ。今まで行動を共にした仲間だ。それくらいのことは分かる。
しかし、カインを放っておく訳にはいかなかった。セシルにとっては生涯愛すべき友なのだ。
此処に来たのも、カインとローザのためであるのだ。
それにセシルには負い目があった。あの日――ミストでの事件の時も今と似たような状況であった。
騙されていたとはいえ、自分達がミストを滅ぼした。そしてリディアにも深い傷を負わせた。それが原因で
カインと離れることになった。
あの時は直ぐそばに倒れていたリディアが気がかりで書置きだけ残してオアシスの村カイポへと向かってしまった。
もっと自分がくまなくカインを探していたら?
炎の燃えさかるミストの町を、大地の魔人タイタンが包むこむ寸前にセシルとカインは誓いをたてた。
一緒にバロンに反旗を返す。その為、まずはローザを助ける。
結果的に見れば反故にされてしまった約束ではあるが、あの時のカインの気持ち全てが偽りだとは思えなかった。
すぐにでもカインを探して合流していれば……このような回り道をする必要もなかったのではないか。
勿論、リディアを身を案じてオアシスへと向かった判断は間違っていなかったとは今でも思っている。
所詮はたられば、仮定の話に過ぎないのだ。
だが、今のセシルにカインを一人残して行くとなど到底できるものではなかった。

83 :299:2009/05/31(日) 17:17:00 ID:auye8V050
穿つ流星8

ゾット内はあちこちが破損し、迷路のような道であれも整頓された道の面影は無く、瓦礫の点在する道は
移動の労力は以前に比べると格段に掛かるようになっていた。
それに加え、常に薄黒い煙が周囲を覆い尽くし視界を遮り、足元だけでなく、前の見通しも立たぬほどで
あった。
それに加え気絶したカインを抱えた状態なのだ。少し移動するのですらひどく骨の折れることであった。
「!」
どれほどまで歩いた時だろうか。セシルの視界に<それ>が入ってきたのは……
漆黒の鎧に身をまとったその姿――声は何度も聞いたが直接会うのはファブール以来であろうか。
「ゴルベーザ!」
セシルは思わず声を荒げた。バロンからこの道まですべてはこの男が原因でもあるのだ。
「ぐっ……セシルか」
どうやら傷ついているようだ、苦しそうな声を上げている。
「まさかお前たちの仲間にメテオを行使できるものがいたとはな? だがクリスタルは手に入れた……
「!」
やはりこの状況はテラが……予想していたとはいえ、驚かぬことはできなかった。
「ほう……カインの奴も一緒なのか? その様子だと<術>の方はとけているのだろう」
「何!」
こちらの言葉は予想外であった。
「やはりカインは……お前が操っていたのか!」
「ふん……所詮はきっかけにしかすぎぬ、私の術は。そもそもの原因はその男にあるのだ。お前を薄々勘付いていたのだろう――試練を
乗り越えた者、パラディンよ?」
「だからって」
こんな事許せるわけはない。
「ローザは!?」
ありったけ疑問をぶつけるつもりでいた。
「無事なんだろうな!」
「ふん……始末はするつもりだったが、この有様だどうやら後回しになったらしい」
どうでもいいといった感じに話す。
「あの女にもう用はないな。好きに持っていくがいい。最も……もう仕掛けの方が作動しているかもしれんが
それに、この爆発だ既に巻き込まれている可能性もあるぞ」
<貴様!!>
怒りの言葉を上げようとするが何とかとどめる。
これが奴のやりくちなのだろう。一方的な言葉責めで相手の憎しみを煽り出す……付き合った方の負けだ。
「だが……このまま逃がしはしない」
言葉による怒りをなんとか抑えたものの、完全なまでに抑える事はできない。
元凶たる漆黒の男――打ち倒すなら今しかない。
元凶の討伐。妥当ではあるが、怒りの発散の為の強引な理由づけでもあるのかもしれない……

84 :299:2009/05/31(日) 17:17:42 ID:auye8V050
穿つ流星9

「ふん、敢えて私に挑むというのか……見逃してやろうと思ったものの」
「……」
「私もこのザマだが、お前も相当疲弊しているのだろう?」
その通りだ。弱体化してるとはいえ巨大な力を持つ者にたった一人で挑むのだ。その上、気絶しているカインを守りながら。
分の悪い戦いであるのは明白だ。
「どうやらお前達には計画性という言葉がほとんど存在せぬらしいな!」
どこにこんな力を残していたのだというような勢いの魔法がセシルへと向けられた。
「ぐ――」
慌てふためき、身を翻しカインの守る。
自分はまだ意識がある。だが、カインは未だ覚めぬまま。攻撃がくるという意識のないままの奇襲は百戦練磨の戦士と
いえども危険であることに変わりない。
自分よりもカインのダメージを抑えることが先決だ!
その判断は正しかったのか……?
「ふん他愛もない!」
今の直撃が響いた。動くことはできても戦う事は出来ない。
逃げる事ならできる。勿論一人でだが。それでは意味がない。
「とどめといこうか!」
しまったと思った時には遅かっただろう。
カインを一緒に連れてきた事、手負いのゴルベーザにとどめをさそうとした事、相手の力量を具体的に判断できなかった事。
何もかもが全て裏目にでてしまった。
「ここで止まるわけにはいかない……」
小声で囁くも体は言うことをきかない。未だ目的を果たしていないこの体を果てさせてはならない。
「ぐっ! 体が……!」
もはやどうにもならない。そう思い、セシルは半ば死を覚悟していた――その時だった。
「?」
「お前は一体……!」
突如ゴルベーザが悶え始めていた。
「…………」
今になって傷が疼き始めたのか? 否、それはないだろう。
ゴルベーザの悶え方はただの痛みではない。まるで何か他の者からの干渉を受けており、それに抵抗しているようだ。
「くっ……命拾いしたな! この勝負、一旦預けるぞ!」
そう言って、ふらふらとした足取りのまま、セシルから背を向けて歩き出した。
「敵に背を向けるってのか……」
敵大将とあるものが何を考えている? それ程にゴルベーザは錯乱しているのか?
ゴルベーザに止めをさすのなら今しかないのでは。困惑の中セシルはそのような判断を思いついたのだがそれは出来なかった……
そう<出来ない>のではなく<出来なかった>
先程の一撃で手負いの傷を負っている。無駄な体力の消費は避けたかった、テラ達がどうなっているのかも気がかりであった。
だが、この戦乱の片棒を担いだゴルベーザに対して憎しみが全く無いわけではない。
その黒幕が目先にいる。そして仕留めるにはまたとないチャンスである。
なのにセシルの体は動かなかった。体力的にも精神的にも決して動けなかったわけではないのに。
粉塵の支配する視界の中から消えゆくゴルベーザを見た――別のなにかと闘うであろうその様子――セシルは
ただ黙ってゴルベーザを見届ける事しか出来なかった。

85 :299:2009/06/17(水) 16:18:37 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星10

カインを抱えての半壊した機械塔の登頂は終わりを迎えた。
最上階――おそらくここにローザはいる。そう……遂に三人がそろう時がきたのだ。
バロンの門出から此処まで、きちんとした形で向い合うのは初めてだ。
「テラ」
だが……その前にもう一つやらねばならぬ事がある。
今までのセシルの長い旅路の中に、付き合ってくれた仲間――その一人である老魔道士テラ。
彼はどうなったのであろうか? 封印されし究極魔法メテオ。
テラがそれを行使した事は最前のゴルベーザとの会話でわかっていた。
そして、その事実が何を意味するのかもセシルには理解できていたのだ……
最も今のゾットの崩壊っぷりをみればただならぬ事がおこっているのは理解できるであろう。
最上階には今までの狭苦しく張り巡らされた迷路とは違い、がらんどうとした大広間が広がっていた。
下の階へと続く階段と最深部へと続く扉以外には何もない殺風景な場所だ。
「テラ……!」
下の階でもあの荒廃っぷりだ。事の元凶であろうこの場所は他の場所と比べても、一段と崩壊している。
粉塵は大量に舞い、息苦しい。先を見通す事は更に厳しい事だ。ましてやそんな場所で人を探すなど殆ど不可能
と言ってもいいくらいだ。
「テラ!」
だが、セシルはその名を呼び続けた。
彼は間違いなく此処にいる。確信があった。それに、一刻も早く彼に合わなければ手遅れになってしまう。
「セシルか!?」
何所かから自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「シドか? どっちだ!」
「こっちじゃ」
シドの声が終わる頃には走り出していた。
カインを抱え、降り注ぐ粉塵の中を歩く。見通しの立たない視界にもやっと慣れてきて、周りが良く見えてきた。
「テラ」
ようやくの思いで辿りついたシド達の元には想像通りの光景が広がっていた。
シドとヤン。その二人の中心にいる人物テラ――まるで二人に看取られるかのように地面へと寝そべっている。

86 :299:2009/06/17(水) 16:26:55 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星11

「セ……シルか……」
その声は今にも消え入りそうであった。
見れば、肌は枯れ木のような褐色の色になり痩せこけている。そして、儚くも残ったその肉体すらも細かな魔力粒になって
拡散してしまいそうだ。
魔力を使い果たした者の末路……それはただの死ではない。肉体すらも残る事のない完全なる消滅。
「おい、喋るな!」
シドが叱責する。それは消えゆく灯火を必死に止めようとしているかのようであった。
「やはり――」
メテオがどんな魔法かは分かっているつもりであったし、今のテラにそれを行使する為にどんな代償があるのかも
分かっているはずだった。
だが予想できたはずであろう恐ろしい事態であろうともいざ実際に遭遇してしまうと、息を呑まざるを得ない。
長老の言いつけを守ればなかった……もし自分がここにいればテラを止める事ができたのだろうか?
「それははカイン――殿ですか?」
一瞬だが殿を付けるのをためらった後、ヤンが尋ねる。。
恨み節をぶつけたい気持ちもあったのだろう。だが今は状況の確認程度に留めておくべきだと判断したのだろう。
「ああ……どうやらさっきの衝撃で術が解けたようだ。もう心配ない…」
結局自分は友人を助ける為にテラを犠牲にしてしまったようなものだ。
「ならば! ゴルベーザは」
テラが期待したであろう言葉をシドが代弁する。
ここまで付き添ったシドにとってはテラの目的の成就は自分の事のように嬉しかったのだろう。
「いや……それが」
本当の事をいうか一瞬悩んだ。
今の状況ではテラの命はもはや長くはないであろう。
だが、そのような消えゆく命の灯火に不本意な事実を教えるのは酷な事ではないか?
最期くらいはせめて辛い現実など何も知らずに逝かせるべきなのでは?
「倒せなんだか……」
言い淀むセシルの言葉を打ち消したのはテラ本人からであった。
「すまない――」
何もかも見通しのようであった。
この場に及んで嘘をつこうとした自分に対し、罪悪感が増す。

87 :299:2009/06/17(水) 16:27:36 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星12

「気にするな――何もかも私自身で決めて行ったことなのだ。結果がどうであろうと他人である誰かが文句をいう事
も咎める事も出来ぬ」
「長老は――あなたの無事を祈っていたのに……?」
「ふ……心配症なあやつらしい」
この場に及んで、テラの言葉は穏やかであった
「だが……人の今生は自分で決めるもの。始まりが誰かに授けられたものとしても、終わりは自分で幕を下ろすもの……」
「…………」
「これも憎しみに捉われて戦った報いかもしれん。私も奴も本質的には同じであった。似たような者がぶつかったとしても力を
擦り減らすだけなのかもしれん。だが、どんな結果であろうとも私はやることをやった。満足感はあるし後悔する気もおこらん。
正直、アンナの敵を取れなかったのは本当は悔しい……後はお前達に託すしかないようだ」
「そんな事をいうな!」
シドが言った。
「しっかりしろ、すぐにローザを助けだして、飛空挺に連れて行ってやるぞ! バロンに帰ってゆっくり養生すれば――」
「無駄だよ」
どこまでもお見通しのようだ。
「自分の体の事は自分が一番良く分かる。人生が終わる時――それに他の誰が干渉することもできん」
テラがゆっくりと目を閉じる。
「何だと! おいっ目を開けろ!」
今度は怒ったような口調で言う。
「起きろ! 起きるのじゃ! くそじじい」
いつもの罵倒を被せる。テラの命を少しでも引き留めようとするシドなりのやり方なのであろう。
声が枯れてしまうのではないかと思う程の必死の罵声は寂しく響き渡るだけであった……
終始無言で事を見届けていたヤンが黙祷するかのように静かに目を閉じた。
程無くしてテラの体は静かになった。それどころか枯れ木のように衰弱しきった体は次第に微々たる光の粒となりゆっくりと
拡散していった。
肉体を魔力に変え力を使い果たした賢者に待っているのはただの死では無かった。自らの肉体すらも消してしまう完全な意味
での消滅であった。
穏やかな散り際であった。
しばらくの間、誰も何も言わなかった。

88 :299:2009/06/17(水) 16:31:37 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星13


「わしはお前の考えなど認めぬぞ! 認めぬぞ!」
しばらくしてシドが口を開いた。
テラの最期の言葉を認めれぬのか、何度もそう言い続けた。
「誰も干渉できぬだとふざけるな! 今まで、これまでの道程は一体なんだったのだ!」
セシルもヤンも怒れる技師を窘めることはしなかった。
彼が腑に落ちなかったテラの言葉対して、二人はただ受け止めただけで、否定も肯定もするような域にまでは達していなかった。
そんな気持ちではシドの怒りを収める事など到底できやしない。自分達が何をいっても今のシドを納得させる事は出来ないだろう。
セシルとヤン、二人の共通の見解であった。
「正直情けないです……」
ヤンが口を開く。
「仮にも一国の軍団を収めていた立場の私が……半生以上生きてきた私が何も言えないなんて」
「そう自分を責めないでくれヤン」
「ですが……」
「どんな立場の人間だって、何年生きたって関係無い。誰だって分からない事や、理解できない事はあるよ。それに対して
自分を責めたら意味がないよ。大事なのは認識する事。その言葉が良いのか悪いのか、優れているのか劣っているのかとか
そんな意味じゃなくて。
「それはパラディンだからこそ言える言葉ですか?」
「いや……若いからこそいえる言葉だろうね。だからヤンにとっては煩わしいだけに思うかもしれないけど」
「いえとんでもありません。良い言葉です。いい刺激になりました」
ヤンが微笑して返答した。
「そうか」
「それで、セシル殿。カインとやらは?」
ヤンがどう思ったのかは分からないが、彼は話題と視線をセシルの背中にいる人物へと注いだ。
「カインか……」
「命に別状はないようだよ、じきに目を覚ますと思うよ――」
そう言ってセシルはカインを床に寝かせ、いまだ深い眠りの中にいる彼へと視線を注がせた。
目が覚めた時、自分はどうすればいいのだろう?
……そんな事は愚問であろう。
カインが何を考えているのかは完全にはわからない。でも今は向き合わなければならない。
ローザを含めた三人――どこかで捻じれてしまった関係を目を背けることなくはっきりさせる
それが三人が今までと同じでいられなくなったとしても。
その為には自分から一歩でも先に進まなければならないのだ。
「カイン」
始めの第一歩を踏み出すため、セシルは友の名をはっきりと呼んだ。

89 :299:2009/06/17(水) 16:55:14 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星14

<俺は捨てられたのか――>
未だ混濁する意識の中、夢と現実の挟間の中の竜騎士の脳裏にはその言葉だけがよぎっていた。
<妥当な線だ。ならばこのまま沈みゆくのも悪くはない>
<本当にそれでいいのか?>
<ゴルベーザの奴に一泡吹かせてやるべきではないか。それにセシルやローザとも>
様々な悩みが交錯する。
一旦、悩みが消えると新しい悩みが頭に浮かび、その後に先程までの悩みが再びわきあがってくる。
悩みが幾重にも絡まり、頭を支配する。
<二人にどう会えばいい?>
自分の都合で二人をひいては自分と彼らの絆を傷つけてしまった。
カインには負い目があった。
<どうすればいい>
駆け巡る悩みのどれにも明確な答えを返せずにいた。
<やはりこのまま沈むのが最善といえるのか>
人が何をどうしていいのかわからなった時に陥るもの、思考放棄の選択肢がカインの心を支配しかけていた。
<――イン>
ふと自分の思考以外の何かが聞こえた。
<カ――ン>
カインは初めのうちは障害だと認識し、必死に耳から遠ざけようとした。
<カイン>
しかし、何度も繰り返されるそれがやがて自分の名を叫ぶものだということに気づいた。
<この声は――>
しだいに耳を傾けるうちにその声の主が誰なのかカインにはわかった。
<セシル――>
まだ自分を……こんな自分を呼び戻そうとするのか?
その声に答えるべきかどうかの躊躇いなどカインにはなかった。
自分を奈落の底から引き戻すようなその声に、あらゆる感情が後回しになった。
<セシル>
堕つる自分に差し伸べられた手を掴む。吉と出ようが凶と出ようが関係ない。
今はただ前だけ見ればいい。振り返る事などしたくはない。
その一心がカインを悩める檻から飛び出させた。

90 :299:2009/06/17(水) 16:55:58 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星15

「セシル!」
カインは、はっと起き上り口を開いた。
「目が覚めたのかカイン?」
「ああ……見ての通り体はなんともない。元気だ……」
「良かった」
純粋に嬉しさを言葉に出すセシルに対し、カインの様子には陰りがある。
「俺は確かに操られていた。その時の事は殆ど全部と言ってもいいくらいに覚えている。意識はあったのだ。
自分がとんでもない事をしていることも――自覚してたつもりだ」
悔しさがカインを支配していた。結局自分のやってきた事は誰かに利用されていただけ。どんなに意思をかがけようとも
どんなに目的だと主張しようが、駒の一つに過ぎなかった。荒風が吹けばあっという間に崩れてしまう、その程度の脆い繋がり。
「だが、それも終わりだ。俺は奴、ゴルベーザにすら見放された。もはや何処にもいくところなどない」
「操られていたんだろう……僕は責めたりなんかしない」
「ゴルベーザに従い色々と取り返しの付かない事をしてしまったのを恨んでいる奴もいる……」
容易い友人の情けだけで許してもらうつもりはカインには微塵もなかった。
そう言ってセシルの後方にいるヤンを見やる。
「ファブールでの犠牲者は数知れなかっただろう……」
「それで懺悔のつもりですか」
穏やかな口調の中にも、厳しさを混ぜたヤンの言葉。
「許してはくれないか……」
予想通りの反応だ。
「当然です。だから確かめたいのです」
「……どういう事だ?」
今度は予想外の反応であった。カインも疑問を返す。
「カイン、殿……あなたを許すことは出来ない。たとえセシル殿の友人であってもだ。
だから試したいのです。あなたが信頼に値する人物なのかを」
「ならばここで俺を手にはかけないということか」
「私はそれで納得するつもりです」
「そうか。すまない……」
続いてカインはシドの方を見やる。
「わしは、お前が操られていたことに対しては驚きしか感じておらんかった。
こうやって今正気に戻れた。いくらでもやり直しが利くはずだ。それに対して
何もいう気はおこらん」
テラへの不満を精一杯吐き出した老技師の目は少しばかり腫れていた。
「重い話はあやつのだけで満腹だ」
あやつとはテラの事だ。

91 :299:2009/06/17(水) 16:59:33 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星16

「カイン。自分に対して懺悔する時間は終わりだ。今はもっと重要な事がある」
二人の言葉を聞いてもまだ沈黙をたもつカインにセシルが投げかける。
「…………」
「分かってるのだろ? 今君が一刻も早く顔向けしなければならない人物がいるって事に?」
「ああ。ローザか」
セシルの問いに疑問符をつけることなく返答する。
「そうだ。何所に居るかわかるか?」
カインのローザを想う気持ちがまだ健在であった事に嬉しさを感じ問いを返す。
「この奥にいるはずだ。だが、あまりいい待遇ではない。それに時間がないかもしれん」
「どういうことだ?」
「ゴルベーザの合っただろ。奴が言っていなかったか?」
<仕掛けとやらが作動しているかもしれん>短期間の濃い密度の中の一つの言葉が思い出される。
「まさか、本当だったのか?」
「ああ……俺も詳しい事情は分らん。だが奴が、ゴルベーザがローザを始末するつもりだったのは
確かだ!」
「躊躇している時間は無いってことか」
「急ぐぞ!」
そう言ってさっそうと駆け出す。
セシルもその勢いに負けぬように追いつく。
もうすぐだ……やっと自分の成すべき道程は一度の終着をむかえる。
だが、それは決して完全なる意味の終わりではない。この先、いくらでも道は分たれていくであろう。
しかし、いつでも交わる事ができるようにしておけば、いつかは何処かで再開できる。
「ローザ!」
セシルとカインどちらかが発した言葉なのか分からない。
否――二人ともが殆ど同時に彼女の名を呼んだのであろう。
「セシル!」
呼ぶ声が返ってきた。その声の主は間違い無くローザであった。

92 :299:2009/06/17(水) 17:00:16 ID:mBGiIqVx0
穿つ流星17

死を覚悟した。
バルバリシア。それを指示するゴルベーザが自分をどうしようとしているのかは重々承知していた。
もうすぐ、上空にそびえたつ鋭利な<それ>が拘束された自分へと降りかかる……
ようやく固めた決意の中で果てていくのは不本意だと思っていた。
ただでは転びたくはない。そう願った結果だろうか。
気づかぬ内に自分の体を縛る拘束具が外れていた。始めは何かの冗談だと思った。
だが、すぐにでもローザは思考を切り替えた。
最前までは恐怖があったのかと聞かれれば、勿論そうだと答える他はない。
しかし、いつまでもそのような恐怖に縛らていては何所に行くことすらも出来ない――かつての自分がそうであったように。
そんな事は決してあってはならない。今はその恐怖を断ち切り、自分の成すべき事をせねばならない。
ましてや、絶望とすら思えた状況の中で、何かしらの奇跡とも思える状況が起こったのだ。
大なり小なりあれど、奇跡と呼べる程の言葉を贈りたい場合には、何がしかの裏付けがあるものではないか?
ローザの持論という程ではないが、世の中の多くの人間はまずありえない程の幸運な事態に遭遇すると、まずは疑ってみるものなのでは
ないか。
今さっき、ローザが直面した<奇跡的状況>にもこのような考えを張り巡らす余地は充分にあっただろう。
だが、今は考えている場合などない。そして必要な局面でもない。無駄な時間は一つも無い。
そう思ったローザは、今この場で起こった状況を、偶然にも拾った幸運と捉え、すぐさまに走り出した。
<セシルは此処にやってきている>
バルバリシアの話した言葉によるとカインと戦っているのであろう……
二人がどうなっているのか? その結末はローザには分らない。
だが、そのどちらか又は両者ともがいずれ此処にやってくる事は間違いないであろう。
急かす気持ちと共に、自分が閉じ込められていたであろうこの部屋の出口へと走る。
その途中で扉が勝手に向こう側から開く。
そこから現れた人影が二つ。黒き鎧を纏った者と、白き鎧を纏った者。
<彼ら>から自分の名前が発せられた。
そしてローザも返答するように<彼>の名を呼ぶ
「セシル」
今は誰よりも優先して会いたかったその名を――

93 :ナンバリングを復活させてみた:2009/07/08(水) 18:25:11 ID:4V9BLpTL0
FINAL FANTASY IV #0538 6章 2節 「穿つ流星」(18)

嘘ではない。夢でもなければ幻でもない。
だが、セシルにとってはいまだに眼前にいる人物を前に今が本当に現実なのかどうかと確かめる気持ちで
一杯であった。
「ローザ。無事だったんだな」
そうやって率直に嬉しさを言葉に出来たのは、ローザとの対面から少したってからであった。
「ええ……セシル」
彼女も同じ気持ちなのだろう。その言葉を交わした後、しばらくの間は無言の間が辺りを支配していた。
お互いに言いたい事は数えきれない程にあるのだ。あまりに話すべき事が多すぎて、何から話してよいのか、
わからずにそのまま会話が途切れてしまっているのだ。
「ふふ……なんだか可笑しいわね」
再開という名の嬉しい沈黙を打ち止めたのはローザの微笑であった。
「あなたに会いたくて仕方無かったのに……沢山話をしたかったのに、言わなければならなかった事も
あったのに、いざこうして会えたらそれだけで頭が一杯になっちゃて……」
「いや僕もだよ……」
笑いながら話すローザは決して怒ってはいないのだが、セシルは少し申し訳ない気持ちを口にした。
「ローザ」
改めて彼女の名を呼ぶ。間違い無く彼女は此処にいる。唯その事実が嬉しかった。
「私……あなたが来てくれると信じていたわ……」
その言葉に呼応するかのようにローザが返答する。その声色には先程の微笑気味の会話には無い涙色が
含まれている。
「ローザ……!」
瞬時にローザはセシルの胸元へと崩れ落ちた。
「もう迷いたくないの……!」
「当然だよ……君の事は誰よりも大切に思っている。僕も――」
カインも。そう言おうとした自分に嫌悪した。
誰もを大切に扱おうとする事は時に全ての人間をすれ違い不幸にする。
それを自分は身に持って体験したではないか? この場に及んで、まだ外面を気にするのか?
ちらりと後ろにいるであろうカインを振り返ると、静かに目を閉じ顔を俯けている。
その姿は、自分達三人が何故このようなすれ違いをおこしたのか? それをよく分かった上での態度であろう。
<君も既に承知しているのか、カイン>
たが、それに対して謝罪する気持ちをセシルは抱かない。それはカインに対しても自分に対しても不幸を訪れさせるだけだからだ。
「そう――僕は誰よりも君を思っているよ。誰よりも……」
もう自分の気持ちに嘘をつかない。過去の暗黒騎士であったセシルは、己の境遇とその当時の肩書に謙遜して、常に本音を隠し誰かを
気づかっていたのだ。
その為、ローザの気持ちにもずっと答えられずじまいだったのだ。
結局、自分は自分なのだ。他人とは違う。自分という存在は常に優先されなければならない。
大事なのは自分。時には誰かを犠牲にしてでも自分の想いを押し通すべきなのだ。
人を愛する前に自分という存在を蔑にしてはいけない。それができなければ、最終的には相手も傷つけてしまうのだ。
「君がいなくて分かったよ……僕は君を……」
だから今、この時セシルは誰でもない自分の気持ちを優先するのだ。
「セシル……」
「……ああ」
胸元で嗚咽を挙げ続けるローザをセシルはしっかりと抱きしめた。

94 :299:2009/07/08(水) 18:29:08 ID:4V9BLpTL0
FINAL FANTASY IV #0538 6章 2節 「穿つ流星」(18)

「最初はね……私も怖かったの」
「お母さんかい?」
「うん……シャーロットの方はね快く思ってたんだけど」
「でもバロンに帰ったらちゃんと母さんの元には行くんだよ」
「分かってるわ。きちんと逃げることなく向かうわ。その時にはあなたも……」
「ああ……」
「…………」
「やれやれ、お熱いこっちゃ」
時々の沈黙を交えながら続く二人の談笑に、一先ずの割り込みを欠けたのはシドの銅鑼声であった。
「シド……」
その声に気づいたローザは恥ずかしそうに顔を赤めながら彼の名を呼んだ。
「いや、すまんな。なんだか邪魔を入れてしまったようで……」
恥ずかしがるローザを見たせいなのか、思わずシドは謝罪の言葉を述べる。
「いえいいの。それよりシドも来てくれたのね……」
思えばセシルの後を追ってバロンを飛び出して以降、ローザがシドに会うのは初めてなのである。
「シドにもお礼を言っておかないとね、ありがとう……」
紆余曲折が会ったものの、ローザがカイポまで辿りつけたのは彼の言葉が大きい。そして今こうして再開できたのだ。
感謝の言葉が出るのは当然であろう。
「いやいや、わしはただ思ったことを述べたまでだわい! お前さんをいっつも大事に想っとるのはセシルの方じゃ!
此処に来るまでもずっとお前の事を考えておったぞ! のう?」
「え……ああ…」
シドとローザの会話の中、若干蚊帳の外におかれていたセシルが若干戸惑いながら答える。
確かにシドの言う通り、ローザの事は大切に思っていた。だがそれをあらためて言葉にされるとやはり照れてしまう。
ましてやローザの前である。
「でも、ここまで来れたのもシド……みんなのおかげだよ。僕一人の力では決してここまでこれなかったよ……」
照れ隠しのつもりで思わず口走った言葉であったが、その内容に嘘は含まれていない。
「そうか! 考えればそうかもしれんな! のうヤン……」
シドがどう思ったのかはセシルには詳しくは分らなかったが、シドの方は同調してヤンに言葉を振る。
「ええ、そうですね」
後ろの方で静観を決め込んでいたヤンが返答した。
「ヤンも来ていたのね……良かったわ無事で……」
安堵の溜息をもらしつつもローザは周りへと視線を張り巡らす。
「…………」
その様子から彼女が誰を探しているのかを察したセシルは何とも言えない気持ちになった。

95 :↑訂正 ◆Sw8aso8bbhg2 :2009/07/08(水) 18:30:40 ID:4V9BLpTL0
FINAL FANTASY IV #0540 6章 2節 「穿つ流星」(20)

「ギルバート達はいないの……?」
「彼は今、病床に伏せっておられます」
「え!」
言い淀みかけていたセシルに助け船を出したのはヤンであった。
しかし、堅気な性格の彼の言葉は逆にローザの心配を強くしたようだ。
「安心して……ローザ。ギルバートはね、旅の途中で少し怪我をしただけだよ。そんなに重い怪我では
なかったからもう大丈夫だよ!」
嘘は言っていない。ギルバートの命に別状はない。
「そうだよね……ヤン」
「かたじけない」
自分の言葉にフォローを入れてくれた事に感謝の言葉を述べるヤン。だがその顔はまだ曇った表情である。
その表情から、やはりヤンもセシルと同じ気持ちであったのだろうと確信する。
ローザが捕らわれた後、すぐさまセシル達一向は目的を果たすべくバロンへと船を出した。
結果、セシルは仲間達と離れバロンから数えて二度目と言えるべき旅立ちを経験した。その最中にはもはや諦めかけていた
仲間達との再会もあった。
だが……はぐれてしまった仲間達の中で、いまだに再開できていない人物がいる。
「リディアはどこにいるの……?」
セシル達が説明する必要も無くローザからはその人物の名が出てくる。
「それは……」
ヤンの口が曇る。
彼女の今の所在はセシル達にも分かっていない。生きていると信じている。
しかしそれは唯の希望であり、確信を帯びたものではない。
所詮は唯の願望。いつ残酷な事実がやってきて打ち砕いてしまってもおかしくはない脆い想い。
「リディアも今……別行動をとっている」
嘘とも真でもない曖昧な返答。だが……今のセシルはリディアに対する確実な事実を持っていない。
ローザはあの船の出来事を知らない。もし知ってしまえば、リディアの所存に絶望するであろう。
無駄な心配を増やす事は良くないとセシルは判断した。それに、セシル自身はリディアがまだどこかで生きていると
信じていた。
未定である事態に対しては一人でも多く希望を持っていた方がいい。
余計な不安の数が募れば、その先にある未来にすら霧を募らせるのではないか?
「あの娘が今どんな事をしているのかは分らない、でもいつかはどんな姿でも僕たちに元気な姿を見せてくれるよ」
「そうなの……」
「ああ……そうさ!」
今は信じて彼女との邂逅へと希望を馳せるまでだ……
「とにかく! ここに来るまで、僕だけじゃない沢山の人が助けてくれたんだ! ギルバート、ヤン、シド
テラ……それにカインも――」
話を逸らすつもりはなかったが、その言葉が転機をなった。
「カイン――」
<彼>の名を聞き、ローザは咄嗟に視線を後ろへと巡らした。


96 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2009/07/08(水) 18:31:34 ID:4V9BLpTL0
>>94 訂正0539「穿つ流星」(19)

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